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プレーオフ中に「妻の出産のためチームを離れたい」ロッテ・バレンタイン監督は今江敏晃の“産休”を許可した…ボビーマジック18年目の真実
text by
ボビー・バレンタイン&ピーター・ゴレンボック"Bobby" Valentine&Peter Golenbock
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/10/15 11:00
ボビー・バレンタインが起用し続け、花開いた今江敏晃。じつはプレーオフ中に妻の出産に立ち会いたいと監督に相談していた
日本では、一軍選手の駐車場はまるでウォール街関係者の集会のようだ。高級なメルセデス、最高クラスのBMW、見栄えのするレクサス。西岡はシートに「TSUYOSHI 7」の刺繍を入れ、25インチのホイールをつけたシャンパンゴールドのハマーに乗っていた。質素な物が多い日本で仰々しいものと言えば、それはハマーだった。西岡の車は、この国のほとんどの道で両方の車線にまたがって走っていた。あくまでも冗談ではあるが。
今江が監督室に来て伝えた“産休”の希望
今江はクールな選手で、西岡とは正反対の部類に属していた。彼は10歳年上の元モデルと結婚した。常に時間を守り、常に正しいことをしていた。この姿勢が、彼の妻が出産を間近に控えたプレーオフ中に、幸いをもたらした。今江は監督室に来て、妻が出産時に一緒にいてほしいと言っていると伝えてきた。「出産に立ち会うのに1日チームを離れてもいいでしょうか?」と。私の通訳は、そう言った今江の日本語を即座に訳すことができなかった。
日本の野球選手が、子供の出産や葬儀の参列のために試合を欠場することなど、過去に一度もなかった。私はコーチたちに意見を求めたが、日本人コーチは全員、顔が青ざめていた。これは、チームの和を乱すのではないか? こんなことを許せるのか? どよめきが起きていた。私は、今江が妻と一緒にいたいというのは美しいことだと思い、チームを離れる許可を出した。今江は地元に戻り、その後幸せな気分でチームに再合流し、最後は日本シリーズのMVPにも輝いた。以後、我々はずっと幸せな気持ちを持ち続けている。
<続く>