こんなことが普通にできる19歳がいるんだ

　大会が進んでいく中で、小野はチームをひとつにまとめていったが、特に目を引いたのはサブ組への対応だった。決勝トーナメントに進めば負けられない試合がつづくので、ケガでもしない限り、主力中心でスタメンが組まれる。なかなか出番のない選手は、コンディションも含めて気持ちを維持するのが難しくなる。主力の選手は、試合に集中し、サブ組への目線が行き届かないところが出てくるが、小野はむしろサブ組に目配りをして常に声をかけていた。大会期間中、加地亮、氏家英行、辻本茂輝らが自発的に坊主にした時も「彼らなりに盛り上げてくれて最高です」と、笑みを浮かべてサブ組がチームを盛り上げようとする姿勢に感動していた。勝った試合では、「チーム全員の勝利」と口にした。

前年の1998年アジア大会での小野　©Kazuaki Nishiyama

　その姿勢は、前年のアジアユースでも見て取れた。決勝で韓国に敗れ、準優勝に終わったが、その表彰式の前、小野は控えの選手ひとりひとりにねぎらいの声をかけていたのだ。ワールドユースでの小野のサブ組への目配り、気配りはボールを蹴るのと同じぐらい自然なことで、「こんなことが普通にできる19歳がいるんだ」と、改めて驚かされた。

自分のことよりチームを優先

　プレー面でいえば、局面で技術の高さを見せるものの小野の調子は決してよくはなかった。グループリーグの第2戦のアメリカ戦では後半途中に交代を余儀なくされ、悔しさをかみ殺してロッカーに直行した。3戦目のイングランドを破り、ベスト16でポルトガルを撃破しても「パっとしないんですよ」と表情を曇らせていた。

イングランド戦での小野　©AFLO

　チームが勝ち進んでいる中、ホテルで選手の共同の記者会見が行われた。そこで、小野の調子の悪さを指摘する声が出た。小野は、怪訝な表情を浮かべながらも、「自分のことよりチームが勝てばいいですし、みんな調子がいい。みんなの活躍についていけるように自分もがんばります」と、冷静に語った。傍で聞いていたスタッフが「冷静だよな。自分のことよりチームが好調であることを優先している。それを聞いた選手はさらに自信を深める。みんな、伸二がピッチにいれば大丈夫だと思っていますよ」と語ってくれた。

　伸二がいるから。

　その安心感たるや絶大なものがあった。

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