日本は1－2の逆転負けを喫し、黒星スタートになった。選手は初戦を失い、沈んだ表情をしていたが、小野は顔を上げ、「負けたけど大丈夫。自分たちの方が良いサッカーしていたし、次はもっと良くなる。自分たちはもっと上にいける」と自信満々にそう語った。

　当時はネットがまだ普及する前の時代で、コピーされた新聞がFAXで送られてきており、それをスタッフらは共有していた。小野の言葉が選手の目に入り、敗戦後は暗い表情をしていた選手がつづくアメリカ戦前には「俺らの方がいいサッカーしていたし、次は絶対に勝てる」と小野の言葉をリピートするようなコメントが出るようになったことからキャプテンの影響力の大きさが感じられた。

　伸二が言うんだから。

　チームの選手には、小野に対する絶大な信頼感があった。

環境に戸惑う選手も多い中、唯一無二のキャプテンシーでチームをまとめた小野　©AFLO

アフリカの洗礼を受け入れる小野に他の選手も…

　技術は誰もかなわない。W杯を経験しているし、人間性も素晴らしい。非の打ちどころのないアスリートである小野の言葉をチームメイトは、まるで「サッカーの神様のお告げ」のように受け入れていた。実際、ピッチでは黙々とプレーする選手が多い中、「伸二は戦術的なことも言うけど、めちゃくちゃみんなを鼓舞していた」と遠藤が語るように小野はみんなの背中を押し、監督然として指示を出してチームを牽引した。

　ピッチ外ではホテルが停電したり、食事が大幅に遅れたり、部屋のクーラーがきかなかったり、色んなことが起きた。最初は戸惑いを口にする選手もいたが、小野は文句も言わずに「しょうがないっすよ」と笑って受け入れていた。次第に誰も文句は言わなくなり、選手らは「これがアフリカでしょ」と、ままならない環境も笑い話にして楽しむようになっていた。

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