甲子園の風BACK NUMBER
「大きな選手は羨ましいけれど…」《甲子園準優勝》仙台育英・166cmの“小さな4番”斎藤陽が東京の名門大ではなく地元・仙台大を選んだ「納得のワケ」
posted2023/09/18 11:01
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph by
Nanae Suzuki
泣かないつもりだった。だが、涙が自然と目に溜まっていた。
「グッドルーザーであれ、という気持ちでベンチから(慶応側の優勝インタビューを)見ていたんですけれど……。やっぱり涙が出てしまって」
2連覇を目指した仙台育英の甲子園決勝戦は2-8という結果で終戦した。その瞬間を一塁側ベンチから見届けた4番打者の斎藤陽は、胸中からこみ上げてくる当時の感情を頭の中に思い巡らせながら、丁寧に振り返った。
今夏のファイナルラウンドの幕開けはあまりにも衝撃だった。初回。慶応の1番・丸田湊斗の打球が高く右方向に飛んだ。打球はそのまま斎藤の頭上を越えてライトスタンドに突き刺さった。
「“最初からライトに来るか!”という感じでした」
打球を見送った当時の心境を率直に吐露する。
「あれで一気にドカンと来た感じはしました。でも、初回なので切り替えられましたし、その後に点が取れた(2回裏に1点を返す)ので良かったとは思います」
「この応援の中でやれるのはむしろ楽しみでした」
丸田の先頭打者本塁打からさらにヒートアップしたスタンドの大声援が「外野を守るたびに耳を突いたのでは?」という質問には、平然とした表情でこう返してきた。
「ライトだから(レフト側の)慶応のスタンドは遠かったので……。応援のイメージはずっとしていましたし、この応援の中でやれるのはむしろ楽しみでしたし、実際に楽しかったです。応援は凄かったけれど、センバツでも経験していますので」
結果的に点差が開いたことも「慶応さんの実力が上でした」と潔く敗戦を受け止めた。
だが、今季の自身の歩みについて触れると、表情は少し曇る。
「この夏まで2度目の日本一を目指してきたので悔しさはあります。2年連続で決勝の舞台に立たせてもらえたことは幸せだったと思いますし、幸せな高校野球だったなとは思えるんですけどね」
優勝旗の“白河の関越え”という歴史的な全国制覇を果たした昨夏の甲子園。2年生が多く、翌年も主力に残る選手が多かっただけに、新チームは常に注目の的だった。当時から4番打者を任されていた斎藤を囲む視線も、以前とは比べ物にならないほど熱くなった。