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4エラーの仙台育英監督「奇跡みたいに1点しか…」“大阪桐蔭をねじ伏せた”履正社エースが号泣「共有したのに頭から消えた」ワンプレーとは 

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間淳

間淳Jun Aida

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posted2023/08/17 20:14

4エラーの仙台育英監督「奇跡みたいに1点しか…」“大阪桐蔭をねじ伏せた”履正社エースが号泣「共有したのに頭から消えた」ワンプレーとは<Number Web> photograph by JIJI PRESS

前年度優勝校の仙台育英に敗れ、肩を落とす履正社ナイン

「5、6月のオープン戦でもやっていた作戦だったので選手に戸惑いはなかったと思います。何としても、どうしても4点目がほしかったのですが」

 昨夏の甲子園で頂点に立ち、今夏も主力メンバーが残る仙台育英は優勝候補の筆頭とされている。その王者を追い詰めた履正社。選手たちは潔く力の差を認めた。

「ベストを尽くしましたが、相手の方が」

 主将の森沢拓海選手が試合後、真っ直ぐ前を向いて語った。

「力は出し切りましたが、勝ちきれませんでした。やるべきことをやった結果、相手の力が上でした。チームとして春からの成長を見せられたと思いますし、後悔はないです」

 仙台育英の投手陣は想像以上だった。チームは春先から直球対策に力を入れてきた。打撃マシンの球速を155キロに設定し、全国トップレベルの投手を攻略する準備を進めてきた。だが、仙台育英の湯田統真投手や高橋煌稀投手の直球は質が違った。森沢は「変化球についていって甘い球を捉える狙いで打席に立ちましたが、湯田投手の直球は力があり、高橋投手の直球は伸びがありました」と脱帽した。

 今大会2本の本塁打を放った強打者・森田も、仙台育英の投手陣を攻略できなかった。2つの四球を選んだものの、2打数無安打。凡打はともに内野ゴロだった。直球にタイミングが遅れるファウルが目立ち「球に伸びがあって、球速以上にスピードを感じました。大事なところで1本打てなかったのは今の自分の力です」と振り返った。そして、こう続けた。

「個人としてもチームとしてもやり切ったので悔いはありません。ベストを尽くしましたが、相手の方が強かったです」

勝敗を分けたのは、4点目のスクイズだった

 接戦の勝敗を分けた4点目には、仙台育英の強さが凝縮されていた。

 8回先頭打者の3番・湯浅桜翼選手がライトへ鋭い打球を飛ばして二塁打を放つと、4番・斎藤陽が初球で犠打を決めて、1死三塁とする。続く尾形樹人選手は1ボールからの2球目をスクイズ。強い打球をショートへ転がして勝ち越し点を奪った。

 ポイントはマウンド上の履正社・福田幸之介投手が左投げだったことだ。

 仙台育英の三塁走者・湯浅は牽制球を過度に警戒することなく好スタートを切っていた。福田が球をリリースする時には三塁と本塁の中間まで達していた。打球の勢いを殺さなくてもバットを投球に当てて転がせばスクイズ成功が確実な状況で、尾形は落ち着いて役割を果たした。

 とはいえ、履正社はスクイズに無警戒だったわけではない。

【次ページ】 あの場面では、打って点を取りにくると

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