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「コールドにしてください…」甲子園で日大名門校を次々撃破、おかやま山陽監督が“ボロ負け”で2度涙した夏「あの頃は常に悩んでいた」
text by
堤尚彦Naohiko Tsutsumi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/17 06:01
初戦で日大山形を、2戦目では大垣日大を撃破したおかやま山陽。今から約15年前、監督就任当初はコールド負けを喫するような状態だった
中京大中京でのダブルヘッダーの後は、久居(ひさい)農林を02年夏の甲子園に導いた松葉健司(たけし)監督が率いる松阪と対戦。実は私の就任初年度にも練習試合を実施し、このときは大勝していた。その際に松葉監督から「良いチームですねえ! 来年もやりましょう」とお声がけをいただいての再戦だった。
しかし、選手の力量がガタ落ちしているチームでは、着実に実力を付けている松阪に叶うはずもない。試合は2対19の大敗だった。あまりの実力差に「すみません、コールドにしてください」と申し出たが、松葉監督は「練習試合なので最後までやりましょう。うちの8、9回の攻撃はなしで構いませんので」。攻撃を2イニング省いてもらって、この点差である。せっかく「良いチーム」と言ってもらいながらの大失態に、私は顔面蒼白になり、大敗を悔しがるでもなく呆然と立ち尽くす選手たちを見ていると、監督としての力の無さが情けなく涙が出てきた。
2つの衝撃的な敗戦
試合後はひたすら頭を下げた。松葉監督は「気にしないでください」と言ってくれただけでなく、「半年後にも練習試合をしましょう。堤さんは半年あればなんとかできる人だと感じていますので」と言ってくださった。しかも、決して遠征費が潤沢ではない公立校の松阪が岡山まで遠征してくれるという。東海遠征中、生徒に怒りまくっていた私だったが、松葉監督の温かさに思わず1度は止まった涙が再び出た。
岡山に戻ってからの07年秋の地区予選では、勝てば県大会進出の代表決定戦まで勝ち進むも、倉敷工に完封負け。斎藤は「ハンセン(久保田範泉)が三塁手の頭を越えるどん詰まりの安打を打った記憶がある」と言うが、私はまったくそのシーンを思い出せない。なので、倉敷工に“完全試合”を食らったと対外的には話している。