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「コールドにしてください…」甲子園で日大名門校を次々撃破、おかやま山陽監督が“ボロ負け”で2度涙した夏「あの頃は常に悩んでいた」 

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堤尚彦

堤尚彦Naohiko Tsutsumi

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/08/17 06:01

「コールドにしてください…」甲子園で日大名門校を次々撃破、おかやま山陽監督が“ボロ負け”で2度涙した夏「あの頃は常に悩んでいた」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

初戦で日大山形を、2戦目では大垣日大を撃破したおかやま山陽。今から約15年前、監督就任当初はコールド負けを喫するような状態だった

 松阪との練習試合での大敗と、地区予選で倉敷工に喫した“完全試合”。この二つの衝撃的な敗戦で火が付いた私は選手たちに猛練習を課した。

倉工だけは勘弁してくれ……。勝てっこないだろ

 バットを振り終えた後に疲労と痛みから手が開けなくなるほどの連続ティー打撃、インターバル走……。とことん練習した。その甲斐があってか、年が明け、練習試合が解禁されると勝ち星に恵まれるようになってきた。しかも不思議と接戦で相手についていって、最後は逆転して振り切るという展開ばかり。5月に松阪を岡山に迎えて実施した練習試合も同様だった。半年前は手も足も出なかった相手に食らいつき、6対5でサヨナラ勝ち。この勝利が大きな自信になった。

 08年夏の県大会の抽選前、主将の植松に「どこを引きたいの?」と聞くと間髪入れずに「倉工(倉敷工)です!」。本番の抽選会では、有言実行で倉敷工と初戦で対戦するくじを引き当てた。

 植松の威勢の良い返答に、「そうじゃないといけねえよな! いいぞ、いいぞ!」と言った私だが、内心は「倉工だけは勘弁してくれ……。勝てっこないだろ」と思っていた。

“強い”指導方針への手応え

 だが、松阪との練習試合と同様に、夏の1回戦で倉敷工に雪辱を果たした。スコアは11対10。野球通の人には「泥仕合」と言われてしまいそうなミスもある展開だったが、2度逆転し、8回に3点差を追いつかれるも、最後はサヨナラ勝ちする劇的な試合だった。

 続く2回戦も突破し、夏は就任初年度以来、2年ぶりの16強。同じ16強でも、力のある野球留学生をそろえたチームと、とてつもなく低いレベルからスタートした植松らの代とでは意味合いが大きく異なる。

 振り返ると、“上手く”なるには意味のない練習もたくさんしたと思う。けれども、猛練習で心身が“強く”なったことで、公式戦で思いもよらぬ好結果を残せた。上手いよりも、強くなければいけない――。新生・おかやま山陽の指導方針がおぼろげながら定まった夏だった。

堤、本当にええんか?

 他のチームから見向きもされなかった選手たちが急成長したことで、県内外から入学希望者が増えた。希望者たちの練習や試合を見に行くと、驚くほど技術力が高い。「こんな選手たちが入ってくれるのか」と、私は舞い上がった。

【次ページ】 素行に問題があった選手も「生まれ変わるだろう」

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