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JリーグPRESSBACK NUMBER
“日本人として生きる”Jリーグ屈指のGKに届いた批判「楽な道を選んだ」「本物の日本人じゃない」…朴一圭の切実な告白「傷つきましたし、寂しい」
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byMasashi Hara/Getty Images
posted2023/07/18 11:04
サガン鳥栖に所属するGK・朴一圭(パク・イルギュ)33歳
よりよく生きるための“選択の自由”
なにもかも織り込み済みで、それでも朴は「日本人」になることを選んだ。その選択の是非を問う資格は、この世界の誰にもない。
「国籍を変えても、自分が自分であることまでは変えられないじゃないですか。それはもう、動かしがたい事実なので。でも、『だからこういうふうに生きなきゃいけない』ではなくて、いろんな選択肢があるんだと思ってもらいたいんですよ。在日の子だけじゃなく、似たような境遇にある子たちにも、『自分がよりよく生きるための選択をしてもいいんだ』って。僕の生き方を見て、少しでもそう思ってもらえたらうれしいです」
自分が自分であることは変えようがない。それでも、よりよく生きるための選択をしてもいい――朴の切実な言葉を反芻しながら、その“当然の権利”を前に立ちすくむマイノリティの複雑さについて思いをめぐらせる。頭に浮かんだのは、かつてドロップアウトした朝鮮学校の情景だった。
そこには朝鮮人も韓国人も、日本国籍の生徒もいた。「在日」として雑に括られる全員が、それぞれ完全に違う人間だった。「ウリマル(私たちの言葉)」と日本語が混在した会話が飛び交っていた。民族管弦楽部のカヤグムの音色が廊下に響いた。朴一圭が、あるいはまったく別の誰かが、グラウンドでボールを蹴っていた。いずれ消えていく場所の、劇的でもなければ美しくもないその光景は、たしかにそこにあった。
筆者がどれだけ「在日」について考えても、最後にたどり着くのは過去の記憶だった。だが、朴一圭の物語は、もっと明るく開かれた未来につながっていてもいいはずだ。「パク」という姓の子音が名前の「イ」に連音化して、軽やかな親しみを込めて「パギ」。少年時代に決まったそんな愛称で呼ばれることが、年を重ねるごとに増えていったサッカー選手の物語は。
<#1からつづく>
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