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「髪切ったら打てるようになるんですか?」ロッテあの伝説的ロン毛選手が明かす“髪が理由でトレード”の真相「尖っていた。でも後悔してない」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/16 11:02
かつてロッテでプレーした「異色のロン毛選手」水上善雄
長髪騒動はこうして終わった…
村田の3度目の200勝挑戦となった5月13日の日本ハム戦では、9回にダメ押しのスクイズを決め、偉業達成に花を添えた。翌日も決勝タイムリーを含む猛打賞と暴れた。反骨心の強い水上は、球団から断髪指令が出るたびに活躍した。
「メジャーリーグでは長髪の選手もいたし、別にいいじゃんと思っていました。ロッテでも、外国人選手は特別でした。助っ人のディアズは一切、長髪を咎められなかった。(84年までは)ジーパンの着用もリー兄弟だけには許された。もちろん、私も成績が悪くなったら、長髪のままではいけないと思ってました。だから、球団に『打率3割未満になるか、エラー3つしたら切ります』と言ったんです」
5月18日の近鉄戦で、水上は一塁に悪送球をしてしまう。2つ目のエラーだったが、移動日で秋田に遠征した19日、宿舎近くの『モードスタジオQ』を訪れ、5センチの断髪を敢行。長髪騒動に終止符が打たれた。
「面白いもんで、切ったら誰も何も言わないんです。宿舎に帰って、フロントの人とすれ違っても反応はなかった。これなら、切らなきゃ良かったって思いましたよ」
トレードは「長髪が原因だったと思う」
長髪時の好調が嘘のように、水上は不振に陥る。断髪後の初戦、20日のオリックス戦で6打数ノーヒット3三振。27日の西武戦の途中まで12打数連続でヒットが出なかった。わずか5センチの断髪が心理的な影響を及ぼした。
「私は気持ちでプレーするタイプでした。精神的に乗らないと全然ダメだし、乗ってしまえばどこまでも突っ走れた。レギュラーになりかけた頃、高畠コーチ直伝の手首をこねるバッティングを始めて、周りに『それじゃ打てない』と言われましたけど、絶対に見返してやると思った。何かに反発している時のほうが良いのかもしれません」
村田兆治の200勝、水上の長髪と珍しく話題満載だったロッテは徐々に調子を落とし、最下位に低迷。9月17日の日本ハム戦で、水上は武田一浩から右手首に死球を受け、今季絶望となった。断髪前に3割7分8厘あった打率は2割5分8厘まで下がり、シーズンの終了を迎えた。そして、トレードをテレビで知らされた。
「長髪が原因だったと思います。自分に力がなくなっているのに、尖り続けていた。でも、後悔してないですよ。丸くなって髪を切っとけば良かったなんて一度も思ったことありません。でも、今見ると似合ってなかったですね(笑)」
このトレード劇は厄介者の放出と見られても仕方なかった。2年後、そんな水上にロッテ復帰のチャンスが訪れる――。
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