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「髪切ったら打てるようになるんですか?」ロッテあの伝説的ロン毛選手が明かす“髪が理由でトレード”の真相「尖っていた。でも後悔してない」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/16 11:02
かつてロッテでプレーした「異色のロン毛選手」水上善雄
「ゲン担ぎです。ただ、(3月21日の)オープン戦の日本ハム戦で柴田(保光)のシュートが顔面に当たった。頬の骨折で、全治2カ月でした。デッドボールは髪型のせいとは考えなかった。その代わり、車を黒コルベットからカマロのオープンカーに変えました。入院している間は床屋に行けないから、髪の毛がさらに伸びたんです。復帰して試合に出始めたら、バッティングも好調でエラーもしなかった。じゃあ、このまま行こうと伸ばし続けました」
この頃、ロッテは珍しくマスコミの注目を集めていた。右ヒジの手術という苦難を乗り越えた村田兆治が200勝達成を目前に控えていたのだ。1度目の挑戦となった4月16日の近鉄戦では、2回に右手中指の爪が剥がれるも延長11回を完投。出血しながら182球を投げ切ったが、6対7で敗れた。
「病室のベッドでテレビを見ながら、兆治さんが200勝する時には自分がグラウンドにいなければならないと思いました。若手時代に私がエラーすると、厳しい眼差しを向けながらも次のバッターを打ち取って帳消しにしてくれた。今こそ、兆治さんの力になるべき時だと」
球団は問題視も…村田兆治は「絶対切るなよ」
完治していないにもかかわらず、水上は4月30日に「7番・サード」で復帰。村田の2度目の200勝挑戦の試合だった。医者には「もう一度顔に当たったら修復は無理です」と告げられていたが、エースへの思いを優先した。この日、村田は再び右手中指の爪が剥がれ、4回5失点で降板。普段の数倍に膨れ上がっていたマスコミは水上の長髪に気付き、話題にし始めた。
目立ちたがり屋を公言する水上はノリに乗った。5月2日からの近鉄3連戦では12打数7安打、5月7日のダイエー戦では猛打賞に4打点と打ちまくった。だが、球団上層部は長髪を問題視した。
「フロントのいろんな人から『ウチは子供相手のお菓子会社だ』『野球選手のあるべき姿じゃない』と注意されました。僕は『プロなので、格好がどうだろうと結果が出てればいいんじゃないですか』と言い返していました。『切ったら打てるようになるんですか?』と聞いた時もあった」
遠征先でナイターが終わり、眠りに就こうとした深夜2時、部屋のドアがノックされて「髪を切れ」と命令された日もあった。それでも、水上は首を縦には振らなかった。
「そんな時間にわざわざ来るから、切ってたまるかと余計思いましたね。逆に『髪長くていいね~』って言われたら、あっさり切っていたかもしれない(笑)。天邪鬼なんですよ。兆治さんには『絶対に切るなよ』と言われました。尖った人間が好きだったみたいです」