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「前沢さん、新球場をつくるんですよね?」ファイターズ番記者の問いに絶句…”幻のスクープ”の全貌「隠し立てはしない。でも書かれるとまずいんだ」
posted2023/04/19 06:01
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kiichi Matsumoto
ベストセラー『嫌われた監督』の作家・鈴木忠平氏が描いた『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』(文藝春秋)を一部抜粋して紹介します。【全2回の後編/前編へ】
◆◆◆
高山が次に張り込みをしたのは、それから数日後のことだった。駐車スペースにはちらほらと幹部の車が見えるようになっていた。いつものようにマルボロ・ライトを相棒に灰皿脇に立った。目当てはこの日も吉村であった。あの日に浮かんだ新スタジアム計画への疑念は薄れていた。それよりチームが気がかりだった。ソフトバンクとの差はさらに広がっていた。戦力の差は明白であり、このままではしばらくパ・リーグの覇を握られるかもしれない。記者としてのアンテナは非現実的なスタジアム構想より、すぐ目の前にあるチーム編成に向けられていた。
2本目のタバコに火をつけようとした時だった。頭上の階段で足音が聞こえた。目当ての音だった。静かで意志のある早足ーー吉村だ。高山は確信した。まるで待ち合わせたかのようにターゲットの人物が降りてくる。長年張り込みをしていると、稀にそうした幸運に巡り合う。高山は点けたばかりのタバコの火を消すと、球団事務所のエントランス脇に移動した。
だが、現れたのはこの球団のGMではなかった。太い黒縁眼鏡の奥に三白眼を光らせた人物。事業統轄本部の前沢だった。
新スタジアム構想への疑念をぶつけると…
高山は一瞬、呆然とした。ここ数年、吉村の足音を聞き間違えたことはほとんどなかったからだ。しかし、自分の脇を通り過ぎていく前沢の顔を見て我に返った。消えかけていた新スタジアム計画への疑念がよみがえった。
念のため、ぶつけておくか......。
高山は早足で遠ざかっていく前沢の背中を追った。
「前沢さん」
呼びかけると、スーツ姿が振り向いた。驚いたような顔をしていた。当然だろう、新聞記者が事業統轄本部の人間を取材対象にすることは滅多にない。
「え? 俺? 何かある?」
前沢はそう言うと、身体を半分だけ高山の方に向けて立ち止まった。高山はその佇まいと表情に、微かではあるが揺れを見てとった。だから、想定していたよりさらに端的な質問をぶつけた。
「前沢さん、新球場をつくるんですよね?」
確証はなかった。むしろ、そんなことは不可能だろうと思っていた。それでも万が一、 本当ならば全国的なニュースになる。球団内でも一部の人間しか知らないであろう機密を探るときは多少のブラフを吹っかけて相手の反応を見る。それは高山がスクープを追い続けるうちに身につけた技術の一つだった。
前沢の反応は高山の予想を上回るものだった。眼鏡の奥の細い目を一瞬泳がせると、絶句したのだ。
「え......、どういうこと?」