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「レスラーに引退はないんだろうけど…」蝶野正洋がデビュー25周年で告白した闘魂三銃士への思い「スタートが一緒だからライバルになれた」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byToshiya Kondo
posted2023/03/06 17:02
武藤敬司のデビュー25周年興行にメーンで登場した蝶野正洋(2009年撮影)
蝶野は25周年興行のテーマに「闘魂三銃士」を掲げることを考えている。
「今の時代、闘魂三銃士って言われてもピンとこない人もいる。橋本選手は新日本であれだけチャンピオンとして君臨してきた男だし、彼の息子さんを招待して、オヤジさんの偉大さを伝えてあげたい。闘魂三銃士と呼ばれた3人には、こんな歴史があったんだっていうことをね」
ヒール、アウトロー、一匹狼。蝶野はそんなイメージをまとっている。実際その立場からプロレス界全体を俯瞰して眺め続けてきた。一歩引いて、独特な距離にいたからこそ得られた視点、それがなければ、あの時の新日本の危機を救うことは出来なかった。
新日本のフロントとして長くいなかったところも蝶野らしい。
「内部にいるとすべてが敵に見えてしまう。身内のレスラーが泳ぐための池をつくらなきゃいけないし、池から逃げ出さないように見張らなければならない。それじゃ、自分の視野が狭くなってしまう」
「レスラーに引退はないけど、どこかで線引きしないと…」
区切りの25周年から、この先、蝶野は一体どこに向おうとしているのだろうか。
「レスラーに引退はないんだろうけど、どこかで線引きしないといけない。俺がヒールに変わったのがデビューから10年目。現役を20年続けることを目標にしていたから、折り返しの10年目が来たら、ゴールを見据えてペースを変えなければいけないと思ったんだ。それで、今度は自分の人生全体で考えたとき、70歳まで現役で仕事をすると想定したら、25年目はまた折り返し地点だと思う。
白から黒に変わるときも、9年目ぐらいのときに、何かしなきゃいけないとモヤモヤしていた。今、同じようにモヤモヤしている。あのときのように動くしかない」
それにしても、なぜ25周年のテーマは闘魂三銃士でなければならないのか。蝶野自身が認めるように、べったり仲がよかった3人ではないのにーー。
「確かに、同期といっても別に結束はなかった。だってライバルにはいなくなってもらいたいからね。足を引っ張ることはないけど、ドロップアウトするヤツを引き止めたりはしない。そういう関係ですよ、俺たちは。でも、たまたまかもしれないけどスタートが一緒だったから、ライバル関係になれた。それぞれがそれぞれをリスペクトできたのが、俺たちなんだと思うんだ。1人でも入門の日がずれていればこういう関係になっていなかったことを考えると、不思議だよね」
武藤とも、亡くなった橋本ともその関係は終わらない。いつも心の中にある。自分が今の自分であるために「闘魂三銃士」を切り離すことはできない。そんな蝶野の思いを強く感じた。
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