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JリーグPRESSBACK NUMBER
A級取得・中村憲剛に聞く指導者ライセンス講習の“本当の価値”…本田圭佑の問題提起で議論も「トレーニングの質が明らかに変わっていく」
text by
中村憲剛+戸塚啓Kengo Nakamura + Kei Totsuka
photograph bySportsPressJP/AFLO
posted2023/02/10 17:00
2022年6月、U-16日本代表にロールモデルコーチとして帯同し、若い選手たちを指導する中村憲剛氏。今年度のS級ライセンス受講者にも名を連ねている
周囲のフィードバックという「贅沢な時間」
一人ひとりの気づきを、受講生同士で共有する時間もしっかりと設けられている。指導実践についてインストラクター(注:今後はチューターに呼称変更)と受講者全員が意見を出し合う「フィードバック」は、ライセンス講習会の特色だ。
「指導者ライセンスの講習では、オープニングに行動の心得として自分の考えだけを押し通さない、周りの人の意見も聞く『オープンマインド』の気持ちを持って臨みましょうと伝えられます。指導実践のあとは必ずフィードバックがあり、インストラクターと受講生の間で『こうしたほうがいい』とか『あれはどういう意図だったのか』といったように活発なやり取りがかわされ、フィードバックされた人もそれを真摯に受け止めて改善に努めます」
Jリーグの監督でも、アマチュアの指導現場でも、監督の仕事は結果でジャッジされる。「そうなんですよね」と、中村氏はうなずく。
「普段指導をしていて、この練習が良かった、良くなかった、と言われることはほとんどありません。選手に聞いても、『良かったです』としか言いません。それはそうですよね。現役時代の僕もそうでしたが、監督にセレクトされる立場の選手が、『良くない』と言えるはずがないんです(苦笑)。それだけに、インストラクターの方たちや受講生の仲間がフィードバックしてくれるのは、ものすごく贅沢な時間だと思います」
A級ライセンスの講習会が前期、中期、後期に分かれているのも、実は意味がある。第一義的には受講生が参加しやすくするためだが、講習を受けていない時間を有効活用してもらうためでもあるのだ。
「『間(ま)の学習』と呼ばれているのですが、前期の講習で学んだものを、中期が始まるまでに自分の指導の現場でやってみる。それぞれの場所で指導実践を積み上げて、1年間でライセンスを取得できるところまで持っていくのです」
ライセンス取得までの道のりを振り返ると、「指導者としての自分の成長を実感できる。とりわけ前期と後期では、積み上がるぶんだけトレーニングの質が明らかに変わっていくんです」と中村氏は話す。
「前期はトライしてミスをしてもいい、とインストラクターの方から言われます。指導役としてもプレーヤーとしてもトライ&エラーを繰り返しながら、フィードバックを聞いて、『次に自分がこのテーマの指導実践をすることになったら、こういうふうにしよう』というものが積み上がっていく。間の学習でそれをやってみて、また確度が上がっていくんです」