青柿は山野の期待通りの走りを見せ、優勝のゴールテープを切った。

　山野は、自分たちが取り組んできたものが結実した喜びをかみしめていた。

「出雲を始め今回の箱根の優勝は、日頃からコミュニケーションを取って仲良く接していたものが出たのかなと思います。僕は、先輩のために勝ちたいとか、監督のために勝ちたいという気持ちが強かったんですが、それは何もせずに生まれてくるものではありません。普段からコミュニケーションを取り、仲良く接していることで、後輩が先輩のためにという思いが出てくると思うんです。そういう誰かのために勝ちたいという思い、勝ちたいという強い気持ちを大事にしてやってきました」

実力のある選手たちをキャプテンとしてまとめあげた山野主将（中央）　©Nanae Suzuki

　山野は、その言葉を裏付けるように箱根駅伝前の記者会見で、「今の状況はだいたいどこのチームも同じで、勝ちたいという強い思いがあるチームが最終的に優勝する」と言っていた。優勝した今回、山野は「改めてその通りだな」と思ったという。

3冠という最高の想いをして終わることができました

　優勝後、大八木監督は、選手ひとりひとりに「ありがとう」と感謝の言葉を伝えた。多くの人に親しまれ、昭和の残り香がする個性的なベテラン監督の勇退は、大学駅伝の一つの時代の終わりを告げるような寂しさを感じる。あのちょっとドスの利いた大八木節と名文句は箱根の風物詩になっていた。

　山野は、夏に3人で交わした約束を果たし、一般入試で入ってここまで育ててもらった監督に恩返しをすることができた。

「3冠という最高の想いをして終わることができました。もうやり切ったという感じです」

　大八木監督の満面の笑みに負けない、一点の曇りもない晴々とした笑顔だった。

左側、田澤と円に挟まれる形で胴上げに参加する山野　©JMPA

閉会式での集合写真。山野は卒業後、実業団の九電工で競技を続けるという　©JMPA

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