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往路優勝、駒大・大八木弘明監督が秘めていた“エース田澤外し”という覚悟 青学大とは2分3秒差も「2分ぐらいだと差はないのと同じ」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2023/01/02 21:42
往路優勝を果たし、取材に応じる大八木弘明監督。青学大と2度の“タイム差なし”中継の激闘の後に指揮官が語ったのは…
山川は、グイグイと前に行き、3.5キロ地点の函嶺洞門で2位・青学大に15秒差をつける。その後も山を登り続けたが、運営管理車の大八木監督は気が気でなかった。
「山川の上りのタイムが金子(伊吹、元々5区にエントリーされていた駒大3年)の同区間のタイムよりも遅かったんです。しかも、うしろから中央大が迫って来て、小涌園(11.7キロ地点)で15秒差になった(5区スタート時点では39秒差)。この時は、さすがに並ばれるなって思いました」
だが、ここから山川が粘った。
中央大の阿部陽樹(2年)が来たのを感じていたが、焦らず、下りまでは我慢しようと心に決め、これ以上詰められないように腕を振った。
「うしろから来ていることは感じていたんですが、気温が下がってきて、体が動かなくて……。でも、下りに入れば、突き放す自信があったので、そこまでは耐えようと思って走っていました」
「とにかく飛べ」「頭から突っ込んで走るように」
山川は、長野県の山間部で育ち、平地ではなく、坂をよく上り下りしていた。そのため、上りには絶対的な自信を持っていた。ただ、下りはなかなかスピードを維持して落ちていくことができず、「下りは練習が必要です」と、早くから課題を口にしていた。全日本大学駅伝後、同学年の帰山侑大(1年)たちから「とにかく飛べ」と教えてもらい、大八木監督からは「頭から突っ込んで走るように」と言われ、実践するとスムーズに下れるようになり、手応えを感じた。
スピード化に成功した下りを見せつけ、18.7キロ地点の元箱根では中央大との差を28秒に広げた。
「中央は2、3区とつづけて区間賞を獲ってきて、チームが盛り上がっていたし、山には経験がある選手がいたので、5区スタートで39秒差があっても安心できなかったですね。しかも青学とは“0秒差”でしたので、タイム差がない中でのスタートは1年生にはかなり負担になったと思います。でも、山川は並ばれるかなって思ったけど、よく粘ってくれた。逆に下りに入ってからは中央をかなり離したのでホッとしました。ここで勝てるかもしれないと思いましたね。往路優勝は、この5区の粘りが大きかったです」
大八木監督は、ホッとした表情を浮かべて、そういった。
青学と2分3秒差も「2分ぐらいだと、差はないのと同じですよ」
復路にむけて中央大に30秒、ライバルの青学大には2分3秒差をつけた。しかも復路には7区安原太陽(3年)、8区花尾恭輔(3年)、9区山野力(4年)ら出雲、全日本を制した主力が揃っている。よほどのブレーキがない限り、優勝はすでにその手にあるようにさえ感じる。
「2分ぐらいだと、差はないのと同じですよ。それでも7区、8区、9区で相手を突き放すレースができればいいなと思います。今日の粘りをあしたの選手にも期待したいですね」
往路優勝は19年ぶり4度目だ。明日の復路は、駒澤大学史上初の3冠に向けてのウイニングランになりそうな気配だ。
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