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往路優勝、駒大・大八木弘明監督が秘めていた“エース田澤外し”という覚悟 青学大とは2分3秒差も「2分ぐらいだと差はないのと同じ」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2023/01/02 21:42
往路優勝を果たし、取材に応じる大八木弘明監督。青学大と2度の“タイム差なし”中継の激闘の後に指揮官が語ったのは…
大八木監督はエントリ―からエースを外す覚悟だった
つづく2区の田澤は、12月上旬にコロナを患い、1週間ほど寝込んだ。練習に戻り、なんとか2区を走れる目途が付いたのが、12月20日ごろだった。田澤自身は調子が万全ではないので3区を望んだが、2区は田澤以外におらず、2区を走れないのなら大八木監督はエントリーからエースを外す覚悟だった。
コロナは間違いなく走りに影響し、あれほど苦しそうに坂を上がる田澤は見たことがなかった。21キロ過ぎには中大の吉居大和(3年)が前に出て、田澤が抜かれるというシーンもあった。それでも田澤は走りをまとめてトップの中央大に3秒差、青学大とほぼタイム差のない2位で3区の篠原倖太朗(2年)に襷を渡した。最後の粘りに、学生トップランナーの意地とプライドが垣間見えた。
昨年の箱根でブレーキしてしまった後、声をかけてくれて…
4区では鈴木が驚異的な粘りを見せた。
2位で襷を受けた鈴木は、すぐに前をいく吉居駿恭(1年)に並んだ。14キロ過ぎには4区スタート時点では駒澤大とは26秒差があった青学大の太田蒼生(2年)に並ばれる。しばらく併走するも20キロ手前で太田が前に出た。鈴木が少し遅れ、このままズルズルいくのかと思いきや、そこから再度、青学大との差を詰めていった。
「昨年の箱根でブレーキ(8区で区間18位)してしまった後、田澤さんは声をかけてくれて勇気づけてくれました。今回は体調が万全ではない田澤さんのために、自分がなんとか結果を出したいと思って走りました」
ラスト、鈴木は太田と激しくせめぎ合った。
抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げ、秒差はゼロ(速報値、公式記録は1秒差)ながらも鈴木は、青学大の前を行き、今レースで初めてトップに立ち、5区の山川に襷を渡した。
「芽吹が5区の1年生に襷を渡す前に1番に来てくれたのは、すごく大きかったですね」
大八木監督はそう語ったが、1番が山川の気持ちに火をつけた。
下りに入れば、突き放す自信があった
「芽吹さんがトップで(襷を)持って来てくれた。襷をもらう前に芽吹さんに『いけるぞ』と言われたので、ここでトップの座を渡すわけにはいかないと気合が入りました」