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野球クロスロードBACK NUMBER
「引退か、退団か」前ソフトバンク・松田宣浩が明かす“戦力外通告からの2週間”…涙のセレモニーの“台本になかった演出”とは
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKeiji Ishikawa
posted2022/12/26 11:02
17年間在籍した福岡ソフトバンクホークスに別れを告げた松田宣浩にインタビュー(前編)
退団セレモニーで…“予想外の演出”に涙
3113人の観衆が見守る。「4番・サード」で試合に出場した松田は3打数1安打で、ソフトバンクでのラストゲームを締めた。
セレモニーでは、バックスクリーンのビジョンに松田の退団会見と17年間の足跡、チームメートの惜別メッセージが映し出される。その後、自らの言葉でチーム、仲間、ファンへの感謝。野球が好きであること、他球団でプレーを続けると報告した。
ここまでは、松田も筋書きを知っていた。予想外だったのはこのあとだ。
二軍監督の小久保裕紀が、花束を抱えてマウンドにいる松田の下へ歩いてくる。
「とにかく松田らしく、明るく、楽しく、元気でやってくれ。応援してるからな」
胸が熱くなる。「ヤバい……泣きそう」。目元の潤いを止めようと、顔が硬直する。
無理だった。続いて前一軍監督の工藤公康からも花束を手渡され、感情が溢れた。
「自分が監督1年目から、痛い、かゆいと言わずに全試合出てくれて、本当に救われたよ」
23秒。松田はスタンドから舞い降りる拍手を浴びながら目頭を押さえ、震えていた。
さらに、白紙になっているセレモニーの台本の続きに、チームが松田への感謝を綴る。
スタンドに別れの挨拶を済ませた松田が、自身のオリジナルTシャツを着た選手やスタッフたちに「やりましょう!」と囲まれる。
ソフトバンクの黄金期を支えた背番号「5」が、5回宙に舞った。
「ありがとうございました!」
何度も、何度も頭を下げ、感謝を述べた松田が、自らの手で残されたセレモニーの最後の1ページに演出を加える。
スタンドに手を振り、ベンチに引き上げると思わせながら、踵を返しホームベース上で拳を握る。彼の代名詞であり、ファンをいつも滾らせてくれた、あのポーズだ。
「アッツォ~!!」
茜色に染まった夕刻のスタジアムが、熱気に包まれる。
松田宣浩は右腕を振りかざして熱男を叫び、ソフトバンクに別れを告げた。〈つづく〉
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