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野球クロスロードBACK NUMBER
「引退か、退団か」前ソフトバンク・松田宣浩が明かす“戦力外通告からの2週間”…涙のセレモニーの“台本になかった演出”とは
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKeiji Ishikawa
posted2022/12/26 11:02
17年間在籍した福岡ソフトバンクホークスに別れを告げた松田宣浩にインタビュー(前編)
新監督の藤本博史はチームの若返りを図っていた。実績のある中堅、ベテラン選手を起用する一方で、若手選手にもチャンスを与えられる。松田はその生存競争に敗れた。
43試合の出場で打率2割4厘。ホームランは0本。キャリアワーストの成績だった。
そして、ソフトバンクで最後の一軍出場となった9月7日。松田は戦力外の通告を受け、ファーム行きを命じられた。
「歳は取っていくものですし、どんなにすごい選手でもずっとスーパースターとしてレギュラーで出続けられるなんてことはあり得ないんで。世代交代っていうのは自然の流れだと思ってるし、そのなかで結果を出せなかった。だから別に、『悔しい』とか『あの時こうすればよかった』というのは全くなく」
「やっぱり、野球が好きなんですよ」
松田はその場で、球団から11連戦が終わる20日までに退団するか、引退するかを決断し、報告してほしいと促された。
この時、松田が引退を選択する可能性は「1%くらい」だったという。
99%の現役続行の意思は、今年の経験が大きかったのだと、松田は説明する。
「ずっとレギュラーだったからこそ、控え選手の気持ちがわかった1年だった。試合に出たいけど出られない。でも、『ここで気持ちを切らしたらあかん』とか、これまでにない感情があったりしたんですけど、そこで諦めたり、腐ってしまったら、『これまで自分がやってきたことがすぐに消えるな』って」
ただ、こうも考えてしまう。
主力として7度の日本一を知り、長いプロ野球の歴史で43人しか到達していない通算300ホームランなど実績を残した自負があるからこそ、感情のせめぎあいがあったはずだ。不動のレギュラーだったが故にプレーできない苦しみ――もしかしたら、野球が嫌いになる瞬間だって訪れたのではないか?
松田がすぐに反応した。
「それがないんですよねぇ。『きつい』ってワードは時々感じることがあったかもしれないし、そこで野球が嫌になる選手って結構多いんですけど、僕は嫌いにならないですねぇ。少しでもそう思ったら辞めてたと思います。やっぱり、野球が好きなんですよ」
松田を突き動かすものは、プロ野球選手としての五感とも言えるような感覚だ。