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野球クロスロードBACK NUMBER
「引退か、退団か」前ソフトバンク・松田宣浩が明かす“戦力外通告からの2週間”…涙のセレモニーの“台本になかった演出”とは
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKeiji Ishikawa
posted2022/12/26 11:02
17年間在籍した福岡ソフトバンクホークスに別れを告げた松田宣浩にインタビュー(前編)
いつでも鮮明に呼び覚ますことができる。
「バットにボールが当たった感触。打球が飛んでいく角度。自分が打って喜んでくれるファンの歓声。僕は301本のホームランを打ってるんですけど、『早く302本目を打ちたい!』って思わせてくれるんです。守備でもそうですよね。速い打球を捕る。投げづらい体勢でもしっかり送球してアウトにする。サードで8回、ゴールデングラブ賞を獲らせてもらっていますけど、そういうプレーができると『また獲りたい!』ってなるんですよ。これはねぇ、本人にしかわからない! 忘れられないんですよ、あの感覚が」
戦力外を受けてすぐ、球団に「退団します」と告げなかったのは、そんな麻薬のような快感を再確認したいからでもあった。
およそ2週間、若手たちと汗を流した時間を、松田は「中身が濃かった」と言った。野球をまだやれると思えただけで十分だった。
一軍球場でのセレモニーを断った理由
9月20日。約束の回答期限を迎えた松田は退団することを球団に申し出て、意思は尊重された。その席でかけられた言葉に、ソフトバンクで心を燃やした17年間は間違いではなかったと、喜びがこみ上げてきたという。
「球団の方が“大功労者”って言ってくれたんですよ。功労者じゃないですよ。“大”を付けてくれたんです! 『頑張ってきてよかったなぁ』って思いましたねぇ」
球団は大功労者に、盛大な退団セレモニーを提案してくれた。10月1日、PayPayドーム。一軍が遠征に出ているこのタイミングであれば本拠地でセッティングできるとし、「たくさんのファンにユニフォーム姿を見てもらいたい」とも言ってくれた。
松田が頭を下げる。しかし、球団からの厚意を丁重に断った。理由はこうだ。
「現状として二軍の選手やし、『そんなおこがましいことないな、勘違いやな』って思ったんですよ。前の日(9月30日)から中日と連戦やったんで、そうなると相手ファンの方がわざわざ筑後まで来てくれているのに、そこから福岡市内まで移動させるのも申し訳ないじゃないですか。だから、『本当にありがたいんですけど、セレモニーをやっていただけるのなら筑後にしてください』って」
10月1日。松田の希望通り、筑後で退団セレモニーが開催された。