しかし、そんな空気を察知していたのか、本田は実況の寺川俊平アナに突っ込みの余地を与えて、壁を取っ払おうとしていた。日本対クロアチア戦の前半36分、寺川アナが「日本サポーターの声がホントによく聞こえています」と言うと、本田は「たしかに。埼玉スタジアムですか？」と反応。寺川アナは「いえいえ、カタールのアルジャヌーブスタジアムです」と訂正した。これについて、本田はYouTubeで「埼玉スタジアムじゃないことくらいわかって言ってるわけじゃないですか。じゃないと、オレ病気になるでしょ。自然にボケてるんですよね。笑いを取りたいわけじゃない。返しを期待しているわけですよ」と話した。

　結局、寺川アナは最後まで本田のボケに突っ込まなかった。だが、本田があきらめずにギャグを言い続けることで、思わぬ化学反応が生まれた。決勝戦の後半50分、驚異のスタミナを見せるエムバペに対し、本田が「なんなんこれ。ヤバない？　エムバペ、お前ずっと出てんの？」と言うと、寺川アナは「前半からずっと出ています」と冷静に答えていた。気軽にギャグを放つ本田と真面目に返す寺川アナというコンビは、間違いなくW杯を盛り上げた。

「初めて知りました」見栄を張らない偉大さ

　＜語録6＞
「うま！　今見た？　誰ですか、この選手？」（前半31分）

　＜語録7＞
「キリ、キリアンって言うんですね？　初めて知りました」（後半終了直後）

　ネット上では、本田が選手の名前を知らないことも話題になった。前半31分にはアルゼンチンのデ・パウルのプレーを褒めた後に「誰ですか、この選手？」と聞き、後半終了直後には寺川アナが「（2分で2点を取った）恐ろしい男です。キリアン・エムバペ」と言うと、「キリ、キリアンって言うんですね？　初めて知りました」と話した。

決勝でハットトリックを決めたキリアン・エムバペ ©Kichi Matsumoto/JMPA

「海外サッカーに詳しくない視聴者のために意図的に言っているのでは」という声もあったが、本田はツイッターで〈人の名前を覚えるのは苦手で、代表やミランでプレーしてた時から相手を分析するときは背番号で覚えてた。名前を覚えられない病気とかあったりするんかな。〉と告白した。

　人間には見栄がある。できるだけ自分の知識不足を露呈したくない。普通の解説者なら、知らない選手がいれば黙っているだろう。しかし、本田は正直に「誰ですか、この選手？」「初めて知りました」と言った。ここに人気の秘密がある。視聴者は知ったかぶりをする人よりも、知らないことは素直に知らないと言える人を信頼するのだ。

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