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天才メッシを「陰気な小男」扱い…宿敵ブラジルの“嫌悪と畏敬”「ネイマールは足元にも及ばない」「最大の欠点はアルゼンチン人なこと」
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/12/18 11:03
クロアチア戦で圧倒的な存在感を見せたメッシ。アルゼンチンにとって永遠のライバルであるブラジルではどう見られているのだろうか
「悪くない選手だな。最大の欠点はアルゼンチン人ということだけどね」などと囁くようになった。
それまで、ブラジルの街中でアルゼンチン選手のユニフォームを着ることは完全なタブーだった。「そんな汚らわしいものは脱げ」と罵られても仕方がなかったし、暴行を受ける恐れすらあった。しかし、2000年代後半以降、メッシのバルセロナのユニフォームを、さらには彼のアルゼンチン代表のユニフォームをまとったブラジル人が出没するようになった。これは、マラドーナの全盛期にもなかったことだ。
“代表で勝てないメッシ”について揶揄し続けた
マラドーナが天才であることは、ブラジル人とて知っている。しかし、アルゼンチンのメディアと国民が「史上最高の選手は、ペレではなくマラドーナ」と主張したことには我慢がならなかった。両国が対戦する度に、ブラジル人たちは「1000得点を記録したのはペレだけ、マラドーナはクスリ漬け」と歌うのだった。
2009年にメッシが初めて世界年間最優秀選手に選ばれ、以後、クリスティアーノ・ロナウドと共にこの賞の常連となると、ブラジル人たちも彼を世界最高の選手と認めざるをえなくなった。
しかし、クラブでは世界最高レベルのプレーを披露するこの男が、代表では精彩を欠くことが少なくなかった。
メッシ率いるアルゼンチンは、2006年と2010年のW杯でいずれも準々決勝で敗退。2014年大会で決勝まで勝ち上がったが、ドイツに屈した。2018年W杯でラウンド16で敗れ去った際には母国のメディアと国民から「キャプテンシーが物足りない」と批判され、「永久にマラドーナにはなれない」と決めつけられた。メッシは気分を害し、代表引退を示唆するに至る。
2018年のW杯後、監督に就任したリオネル・スカローニに説得されて2019年3月、代表に復帰したが、この年のコパ・アメリカ(南米選手権)でもアルゼンチンは3位にとどまった。
結局、2020年までにメッシはW杯に4度、2019年までコパ・アメリカに5度出場したが、タイトルとは無縁。ブラジル人たちは、「代表では出来の悪い兄か弟が本人になりすましているのだろう」とからかい、「メッシがキャプテンである限り、国際大会でアルゼンチンに負けることはない」と呵々大笑した。
「陰気な小男」というイメージを払拭したカタールW杯
しかし、2021年にブラジルで開催されたコパ・アメリカで異変が起きる。マラカナン・スタジアム(リオ)で行なわれた決勝で、アルゼンチンがブラジルを下したのである。
こうして、ブラジル人たちは選手メッシへの認識を少しずつ改めていった。しかし、メッシの人間性に対してはなおも嫌悪感を抱き続けた。