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本田圭佑「安定って言葉は、僕の辞書にない」25歳の本田が語っていた”非エリート”の思考法「逆算の方程式はできていたね」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byTamon Matsuzono
posted2022/11/27 17:10
2010年南アW杯の翌年、CSKAモスクワでプレーしていた本田圭佑に直撃インタビューすると…驚きの思考法を明かしてくれた
「そうすればもし想定外が起こったとしても、気持ちを切り替えやすい。試合で予想が外れるなんてざら。想定外の困難に負けずに、勝利に向かって走り出すっていう心構えを作ることが重要だと思う」
モスクワの道路はやはり混んでおり、すぐに渋滞につかまった。だが、本田は隙間を見つけるとぐいぐい車線変更していく。高速道路の入口では長い車列をすっ飛ばし、ぎりぎりまで近づいてからスッと列に入り込んだ。これまでいろんな選手の車に乗ったが、最も運転が力強く、勢いがある。
安定って言葉は、僕の辞書にない
――これまでの日本ではいい学校に入って、いい会社に就職するのがエリートとされてきた。でもビジネスの国際化が進み、そういう安定志向の人材は通用しなくなってきたと言われている。本田くんは「安定」という言葉についてはどう思う?
「安定って言葉は、これまで生きてきてあんまり使ったことがないし、聞いたこともないですね。僕の辞書にない言葉です」
――辞書にない?
「だって、人生は上がるか、落ちるかのどちらかでしょ。安定っていうのは横棒の状態のことを言ってるんでしょ? 誰かがそれを安定と呼んだだけで、僕からしたら横棒というのは下に落ちているわけで」
――確かに安定は、あとから見たら落ちているのかもしれない。
「そう。ただ、勘違いしちゃいけないのは、下に落ちるっていうことが、進化してないということではないんですよ。下に落ちるのも、次に上るための変化かもしれない。上るために、落ちることが必要なこともある」
――今は谷だから、次はこういう山にしようというイメージがあるということ?
「それがイメージできたらすごいけどね。大抵は自分が今から谷に向かっていますって受け入れられるものではない。トンネルをくぐっていて、それが山なのか谷なのか、いつ抜けられるかもわからない。でもなんとか、その真っ暗なトンネルを抜けたくて必死に進むわけですよ。大事なのは、その辛い時期を残念と思うのか、自分にしかできないチャンスだと思うのか、っていうところだと僕は思っている」
本田がかけていたサングラスを外して、シャツの胸元に挿した。言葉にいっそう熱がこもる。
「だから大事なのはね、現状を自分でどうとらえるか。これまでずっと自分を奮い立たせてやってきたし、いろんな面から困難に向かうことを経験してきた。どんな壁にぶち当たっても、絶対に越えてやろうと思っている」