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西武戦の名物“杉谷イジり”はなぜ生まれた? 台本なし&絶妙アドリブで育んだ不思議な8年間「会話はトータル30分くらい」 

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佐藤春佳

佐藤春佳Haruka Sato

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photograph byNanae Suzuki

posted2022/11/25 11:21

西武戦の名物“杉谷イジり”はなぜ生まれた? 台本なし&絶妙アドリブで育んだ不思議な8年間「会話はトータル30分くらい」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

侍ジャパンとの強化試合が現役最後の試合となった杉谷拳士。溢れ出る涙を堪えきれなかった

 そんな“薄くて濃い”絆を結んできた杉谷との別れは突然やってきた。10月28日早朝、鈴木さんが現役引退のニュースを目にしたのは、オフで訪れていた旅行先だった。帰路につく新幹線のなか、何度も何度もスマホのニュースを読み返した。

「最初は何のニュースなんだろう? と驚きました。たまたま一人で新幹線に乗っていたためにものすごく検索してしまって、あれが最後になってしまったのか、とか、これからどうするのかな、とか色々なことを思いましたね。ショックというか、全く想像していない出来事だったので何だか不思議な気持ちで、その時のことはあまり覚えていないんです」

 結果的に「最後」となってしまったアナウンスは、不思議な偶然が重なっていた。10月2日、日本ハム戦は西武の本拠地最終戦だった。長年投手陣を支えた十亀剣、武隈祥太の引退セレモニーなどがあり、当初は杉谷のアナウンスはしない予定だったという。

「杉谷選手が球場に入ってきた時に『来年もよろしくお願いします』という挨拶をかわしたんですね。アナウンスが出来ないことを伝えたら『もちろんです! 十亀さん優先で!』と。ところが、バッティング練習で杉谷選手が出てきたら、ちょっと不自然な間ができて、お客さんが待っている雰囲気を感じました。これはやらないとモヤモヤしそうだな、と思って。残り時間は少なくなっていたんですが、急遽アナウンスを入れたんですよ」

〈『見たい』がこじれる中毒性と、少々軽めのプレミア感。この先もみんなの見たいをかなえるプロ野球選手、杉谷選手の生き様に引き続き、みなさまどうぞご注目ください〉

 バッティング練習を終えると、杉谷は一塁側スタンド、三塁側スタンドそれぞれに深々と頭を下げた。

「オフにはまたオーストラリアで武者修行をするのかな、テレビでも活躍するのかな、という意味で“生き様”という言葉を入れたんです。こうしてみると奇しくも、ですね。振り返れば、両チームの最終戦がこのカードで最後をちゃんと見届けられたというのは良かったのかもしれません」

 実は杉谷への“イジり”アナウンスで、最後まで実現しなかったネタもあった。

「温めていたわけではないんですけど、最初の頃だったか何かのインタビューで杉谷選手が、前の日に大活躍をして、次の日の試合前に『昨日の試合は杉谷選手の活躍でやられました。悔しかったです』とアナウンスされたい、と言っていたのを見たんです。それを言えずに終わったな、と。活躍しなかったという意味じゃないんですよ(笑)。いいタイミングがなかった。いつか言いたいなと思っていたんですけどね」

「社会人になったら名刺の交換でも(笑)」

 突然の別れに“杉谷ロス”に襲われているという鈴木さん。今後新たな“イジりアナウンス”を仕掛ける「ポスト杉谷」が出てくる可能性はあるのだろうか?

「今年いっぱいくらいはロスかもしれないです。ただ、もう北海道で情報番組に出演したりもしていて、すごいスピードで前進していますよね。卒業生を見守っている先生ってこんな感じなんだろうな、と。“ポスト杉谷”ですか? 今はまだ杉谷選手が忘れられない……あ、これは言い方が難しいですね(笑)」

 放送室とグラウンドを結んだ8年間の不思議な絆。引退後はスポーツビジネスについて勉強したいと話している杉谷に、鈴木さんはエールを送る。

「こういう選手に巡り合えるという想像はしていなかったし、こんなに長い付き合いになるとも思っていなかった。こういう形で終わるとも思っていませんでした。ライオンズはもちろん他球団でも自分が応援してしまうような選手はたくさん出てくると思いますが、やはり杉谷選手はちょっと特別ですよね。忘れたくない時間をたくさんいただきましたから(笑)。この先、何かしらの事業をされるとのことなので、社会人になった暁には名刺の交換でもしたい。そこが最初の連絡先交換になるかもしれないですね(笑)」

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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