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西武戦の名物“杉谷イジり”はなぜ生まれた? 台本なし&絶妙アドリブで育んだ不思議な8年間「会話はトータル30分くらい」 

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佐藤春佳

佐藤春佳Haruka Sato

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photograph byNanae Suzuki

posted2022/11/25 11:21

西武戦の名物“杉谷イジり”はなぜ生まれた? 台本なし&絶妙アドリブで育んだ不思議な8年間「会話はトータル30分くらい」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

侍ジャパンとの強化試合が現役最後の試合となった杉谷拳士。溢れ出る涙を堪えきれなかった

 奇妙な縁の始まりは2014年7月の日本ハム戦。アナウンス室の窓ガラス越しに、杉谷が突然話しかけてきた。「杉谷選手バッティング練習あと10分です、ってアナウンスしてください!」。唐突すぎるリクエストに、鈴木さんは思わず目が点になった。

「場内の音声が変だよ、などと言われるのかと窓を開けたら……。そんなことを言ってきた人は初めてだったので……というか、この先もないでしょうけど(笑)。アナウンスは型があるものですから、それはちょっと無理でしょう、と。最後まで迷ったんですがその時は勇気が出ませんでした。通常のアナウンスでバッティング練習が終わった後、杉谷選手が“あれ、ないの?”という表情でこちらを振り返ったんです。それで申し訳ないことをしたな、という思いが残ったんです。あの顔を見ていなければ、その後もやっていなかったかもしれません」

 その年の9月、日本ハムとのカード最終戦の試合前練習で、鈴木さんは勇気を振り絞った。「杉谷選手、バッティング練習、あと○分です」。スタジアムがざわつくのが伝わってきた。

「これは、やっちゃったかな、と思いました。でも練習が終わった後に杉谷選手が『ありがとうございました!』と言いに来てくれた。邪魔にならなかったんだ、良かった、とひとまず安心した記憶があります。そこから『今日は両親が来ているんです』とか、『地元の友達が来るので』とか、練習前に挨拶がてら言ってくださるようになって」

栗山監督「拳士を所沢に連れてきたよ!」

 翌2015年から、杉谷へのアナウンスは少しずつ彩り豊かになっていく。後押ししたのは当時の日本ハムの栗山英樹監督(当時)はじめコーチやスタッフたちだ。「このために拳士を所沢に連れてきたよ!」、「杉谷の打球はスタンドになんて入らないんだから、そう言ってよ」などと鈴木さんに声をかけ、アナウンスを楽しんでくれた。

「栗山監督からは笑顔で、『腕を見せて』と言われたこともありました。私も杉谷選手ってどんな人なんだろう? と色々調べたりするようになったのですが、それ以上に周りの人が教えてくれることが多かった。私は北海道出身なので、たまに両親と話すとなぜか杉谷選手の話題が出たり、たまに電話をかけてくる親戚が杉谷選手の情報を教えてくれたり(笑)」

〈渾身の打球が、まれにスタンドに飛び込むことがございます〉
〈内野も外野もベンチも守ります。スイッチヒッターの杉谷選手〉

 絶妙なイジりのアナウンスは次第に話題を呼び、同カードの名物に。ついには動画サイトや速報ニュースでも取り上げられるようになった。

【次ページ】 台本はなし、ほとんどが“アドリブ”

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