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「決勝はブラジルとスペイン」トルシエのカタールW杯展望と要注目国「サプライズを与えるのはデンマーク、セネガル、モロッコ」
posted2022/11/22 17:04
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Getty Images
フィリップ・トルシエインタビューの第3回(後編)である。
話題は日本代表から大会全般へと進む。トルシエはどこが優勝候補と考え、どこがセンセーションを起こしうると見なしているのだろうか。また母国であり、ディフェンディングチャンピオンであるフランス連覇の可能性は……。(全3回の3回目/#1、#2へ)
優勝候補はブラジルと…
——それでは話題を変えますが、大会全体についてあなたはどう見ていますか。優勝候補はどこでしょうか?
トルシエ もちろんまずブラジルがあげられる。ブラジルとフランス、オランダ、スペインだ。理屈の上ではそうなる。選手のクオリティの面からもそうで、例えばフランスは多くの問題を抱えるが、それでも(キリアン・)ムバッペのような選手は、試合の最後の瞬間に個の力でゴールを決めることができる。オランダはコレクティブかつ規律に溢れているという点で他の追随を許さない。(ルイス・)ファンハールは本物の戦闘マシンを作り上げた。
ブラジルについては個の才能の豊かさが際立っており、誰もがヨーロッパのビッグクラブでプレーしている。その中心がネイマールだ。ダニエウ・アウベスを筆頭にモチベーションも高い。彼はチームの守護神になるだろうし、彼がいるから選手はプレーに集中できる。理論上はブラジルが突出しており、優勝するためのあらゆる要素を備えている。ブラジルこそが未来の世界チャンピオンだ。とてもバランスが取れていてグループは屈強だ。ダニエウ・アウベスがそれをうまくまとめている。彼はチームに自らの経験を伝えているだけでなく、チームの集中力を高めている。チームが高い規律を保っていられるのも、彼の力によるところが大きい。
——しかし39歳という年齢はネックではありませんか?
トルシエ 彼がチームにいるのはプレーのためではない。チームに保証を与えるための存在で、プレーするかどうかは問題ではない。もしかすると1試合もプレーしないだろう。だが彼がそこにいることでチームは大きな保証を得ている。
例えばアルゼンチンにはそんな選手はいない。アルゼンチンも世界最高峰の選手を揃えるが、精神的には安定しておらず(ディエゴ・)マラドーナのような心理的な影響力を持つ選手もいない。マラドーナはまさにダニエウ・アウベスで、5週間の間グループを結束させることができた。アルゼンチンの問題は、大会期間中グループを維持するのが難しいことだ。才能に溢れたトップクラスの選手たちだが、W杯に優勝するためにはグループが結束することが必要だ。
グループが結束するのは卓越したパーソナリティーのもとでだ。ダニエウ・アウベスはたとえ1試合もプレーしなくとも、どの試合でもチームとプレーに集中するようにネイマールを常に喚起できる。それがブラジルの強さであり、キャプテンや副キャプテンが寺院の門番として強力な役割を果たしている。