——ベンゼマが離脱したフランスは、どの選手がプレーとチームの中心になるのでしょうか？

トルシエ　フランスはチームの高齢化が著しく、離脱がなかったとしても（カリム・）ベンゼマも（アントワン・）グリーズマンも歳をとった。（ラファエル・）バランや（ウーゴ・）ロリスのように経験豊富な選手もいるが、チームの雰囲気としては良くもなく悪くもなくというところだろう。私が見る限りフランスにはブラジルのような一体感はない。齢を重ねた選手たちがいる一方で、経験不足の若い選手たちがたくさんいる。ムバッペにしろ（ウェズレイ・）フォファナや（オーレリアン・）チュアメニにしろ能力は高いが経験が足りない。

——世界チャンピオンになったフランスは、若く可能性に溢れたチームでした。あれから4年がたち、チームは成熟したのではないですか。

トルシエ　それは……何にせよW杯を連覇するのはもの凄く難しい。私に言わせれば不可能だ。というのも、ひとつの世代が10年以上にわたってクオリティを維持し続けるのは簡単ではないからだ（註：ディディエ・デシャンが監督に就任してから今年11年目を迎えた）。過去の歴史を見ても、W杯連覇の例はほとんどない。ひとつの世代が強さを保っていられるのはせいぜい5～6年だ。

　残念ながら今のフランスは、18年のチームのようにはバランスが取れてはいない。主力は歳を取り、若手はまだ若すぎる。しかし試合の展開によっては、対戦相手よりもチャンスに恵まれることはある。だが私にはフランスが優勝できるとは思えない。恐らくフランスは、準々決勝あたりで敗れるだろう。もちろんそこを突破する力もあるが。

　私はブラジルやオランダの方が、さらに先に進めると思う。たしかにフランスもグループリーグ突破は確実とみられているし、ムバッペの存在により上位進出の有力候補でもある。サッカー大国でもある。だがW杯を制覇するのはブラジルだろう。

11月17日の練習日に軽快な動きを披露したムバッペ　©Getty Images

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リーダー不在のフランス

——あなたはスペインの名前もあげましたが、彼らもまた若いチームです。

トルシエ　思うにペドリらスペインの若い選手のメンタリティーはとても前向きで、モチベーションはフランスよりも高い。

　フランスには（ポール・）ポグバや（エンゴロ・）カンテなど多くの脱落者がいる。特にふたりは中盤で絶大な能力を発揮した。チュアメニやフォファナら若く可能性に溢れた選手、（アドリアン・）ラビオのように中堅として実績のある選手もいるが、メンタリティーの面でチームへの影響力はほとんどない。ポグバのような選手は、そのメンタリティーでチームに多くのプラスアルファをもたらす。たとえ試合に出場しなくとも、ポグバならばそこにいるだけでチームを勝利に導ける。2018年のフランスの優勝は、ポグバのピッチ上の活躍ももちろんだが、ピッチ外での彼の影響力が導いたものでもあった。彼のような存在が今のフランスにはいない。

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