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「ショボすぎて僕だけ選ばれてませんでした」“足が遅かった160cmの少年”はなぜ日本代表としてオールブラックスと戦えたのか?
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/11/09 17:00
NZ戦に途中出場したPR竹内柊平(24歳)。日本代表としては異色のキャリアを歩んできた男は、夢のW杯にたどり着けるのか
プロップならトップリーグに行けると信じた大学3年の竹内は、本当にNTTコミュニケーションズ(現・浦安D-Rocks)入団を掴んでしまう。リクルーターに熱心に勧誘されたのではない。
2019年3月の合同トライアウト「トップリーガー発掘プロジェクト」で、わずかなチャンスを掴んだ。
トライアウト参加者は3チームに分かれて試合をした。ここで竹内が入ったチームの指導担当が、たまたま現・浦安の斉藤展士(さいとう・のぶじ)アシスタントコーチだった。日本代表合宿にも参加経験のある気鋭のスクラムコーチは、竹内が放った衝撃的な一言をよく憶えている。
「トライアウトのウォーミングアップ中から、明らかに変なスクラムの組み方をしていたんです。試合でも変な組み方をしているので、ゲームを止めてアドバイスをしました。そうしたら『今日初めて試合でスクラムを組んだので、分かりません』と言われたんです」(浦安・斉藤コーチ)
普通なら選考外だろう。しかし斉藤コーチはトライアウト後、チームに戻ると、リクルート担当に竹内の獲得を猛プッシュした。
「面白い選手がいる。ウチのトライアウトに呼ぼうと言いました」(浦安・斉藤コーチ)
ほぼプロップ未経験の竹内のどこに魅力を感じたのか? 斉藤コーチは「直感です」と答えた。大阪・玉川中時代からプロップとして20年以上プレーしたスクラムコーチの直感だった。
「代表を目指します」ノブジさんと二人三脚
かくして千葉・浦安で行われたトライアウトでのパフォーマンスは、満場一致の「合格」。竹内は2020年にNTTコミュニケーションズに入団し、宮崎工業初のトップリーガーとなった。すると目標叶えた竹内は、次なる目標を公言する。
日本代表になります。
しかし社会人1年目にいきなり前十字靭帯断裂。大きな試練を迎えたが、入団2年目に大きな飛躍を遂げる。NTTコミュニケーションズのスクラムをリーグ最強クラスに育てた斉藤コーチの指導が大きかった。
「ノブジさん(斉藤コーチ)はテクニカルなコーチで、初心者の僕でもすぐにスクラムが組めるようになりました。一方で練習は厳しくて、ひたすら体幹を鍛えました。普通だったら耐えきれない量の練習もありましたが、期待してくれているんだと思って食らいつきました」
全体練習後のアフター練習は日常。スクラム姿勢になって重りを押し続ける。交互に首を押さえつける。時に10人相手に8人で組む。狂気と理論が融合した「斉藤式」で、プロップ初心者はメキメキと成長した。
共に日本代表をめざす同志の存在も大きかった。
同期で元帝京大主将のセンター本郷泰司、1学年下で元日本大学主将のフッカー藤村琉士らだ。竹内に比肩する努力の天才たちは、会社員として働きながら業務後に走り込み、ウエイト、ボクシングトレーニング等を重ね、一気にスタンダードをトップ級に上げた。