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CSで5回2失点、DeNAのエース今永昇太がそれでも「申し訳ない」という言葉を使わなかった理由「“全部背負わなきゃ”が自分を苦しめていた」 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph byHideki Sugiyama

posted2022/10/24 11:02

CSで5回2失点、DeNAのエース今永昇太がそれでも「申し訳ない」という言葉を使わなかった理由「“全部背負わなきゃ”が自分を苦しめていた」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

9月25日、ヤクルトの優勝がかかる一戦に登板した今永。今季ノーヒットノーランも達成したエース左腕がシーズンを振り返った

自分ひとりで全部やろうという気持ちを完全に捨てて…

 今永が相手チームの優勝にリーチが掛かった試合に登板するのは、奇しくも2年連続だった。昨年は横浜スタジアムでヤクルトの胴上げを目の当たりにしている。

「巡り合わせとしては非常に珍しいパターンだと思いましたし、面白いなと思って試合の日を迎えましたね」

 平常心そのものだったという。

「去年は、絶対に勝たなければいけない、負けられないという気持ちが自分のパフォーマンスの妨げになっていたので、今回は違うマインドで行こうって。例えば、抑えたいと思ってマウンドに上がっても、それで勝てる相手ではない。だから自分ひとりで全部やろうという気持ちを完全に捨てて、いろんな人に助けてもらいながら投げようって気持ちでしたね」

 責任を背負って投げてきたゆえの境地だろう。もちろんこれまで仲間たちを信用していなかったというわけではないが、今永は、ただ素直に状況を受け入れ、心に余白を作ることに努めた。

 好投をつづけていたヤクルト戦、ピンチは7回に訪れる。中村悠平のヒットを皮切りに、つづくサンタナが連打。さらに代打の青木宣親をフォアボールで出塁させ2アウト満塁としてしまう。先制点を奪われる危機的状況だったが、マウンド上の今永は冷静だった。

あのときは打たれるときは打たれるっていう感覚でした

「神宮のヤクルト戦ですし、そう上手くいくはずもないよなって。ただ、今までの自分だったら絶対抑えなきゃ、ここで点を取られたら試合が決まってしまう、という気持ちで投げていたんですが、あのときは打たれるときは打たれる、抑えるときは抑えるっていう感覚で、何か自分が投げているんですけど客観的に自分を俯瞰しているみたいだったんです」

 達観ともいうべきか、今永の口からこういった感覚の話を今まで聞いたことはなかった。

「さっきも言いましたが、これまでは全部背負わなきゃって考えていたのですが、それが自分を苦しめていたことに気がついたんです。だから誰かの力を借りるとか、自分の弱みを見せたりしてもいいじゃないかって。今季はそういう気持ちで投げていましたね。自分を楽にさせるというか、そういう考え方ってむちゃくちゃ大切だなって」

【次ページ】 「悔しかった」よりも「うらやましかった」

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