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清原和博が桑田真澄から打った日本シリーズ弾は「エサ」だった? 長嶋監督は捕手・村田真一に「明日もあんなことやったら…」
text by
赤坂英一Eiichi Akasaka
photograph byJIJI PRESS
posted2022/10/25 11:00
1994年日本シリーズで本塁打を放つ清原和博
「清原には外一辺倒やったら絶対やられる。ワンパターンはいかん。清原は内角の球を腕をたたんで打ちにいくのはうまくない。そやから、困ったらインコース、これでいこう」
槙原は徹底的に清原のインコースを攻めた
第2戦の先発はプライベートでも村田と仲のいい槙原寛己。村田のサイン通り、清原の打席は徹底してインコースを攻めた。
村田のリードがはまったのは1-0と1点リードで迎えた4回、ツーアウトニ塁の場面である。先にフォークで清原を空振りさせ、高めの真っ直ぐで空振り三振。インサイドと落ちる球を意識させ、最後に逆を突いて抑え込んだ。結局、清原は4打数無安打。槙原の完封で巨人が1勝目を挙げた。
第3戦は、第2戦で使ったパターンを引っ繰り返した。1-1と同点の8回、ノーアウト一、三塁で清原が打席に入ると、石毛博史に真っ直ぐを3球続けさせ、フォークで空振り三振に仕留める。真っ直ぐとフォークの使い方を逆にして清原を翻弄したのだ。
桑田が抑えで登板した延長10回は、清原にフォークを拾われてレフト前ヒットにされている。さすがにきっちりと対応されたわけだが、すでにツーアウトで走者のいない場面。残る最後のひとりを抑え、2-1で勝ったのだから構わない、と村田は言う。
「清原ほどの打者を全打席抑えるなんて無理な話や。極端に言えば、ランナーのいるピンチでしっかり抑えられたら、ランナーのいない場面なんかソロ本塁打まではOKよ」
走者のいない場面では、あえて投手に打ちごろの球を投げさせることもあったという。高い確率で清原を抑えられる配球は、走者を背負ったピンチでこそ使いたい。勝負どころでそういうリードにはめるため、前の打席でわざと“エサ”を撤いておくわけだ。
「例えば、第1、第2打席と内角の真っ直ぐで抑えにいくと、第3打席はどうしても内角ばかり意識して、外のほうはガラ空きになるやろ。そこで1球か2球外にほうると、いつまた外に来るかと清原も考える。エサに食いつけば食いつくほど、悩みが増えるんや」
「清原には…」第5戦、桑田が突然言い出した
しかし、斎藤雅樹が登板した第4戦、清原は5打数2安打2打点をマーク。追撃の本塁打に勝ち越しタイムリーと本来の勝負強さを発揮し、西武のサヨナラ勝ちを呼び寄せた。
そして、2勝2敗の五分で臨んだ第5戦、先発の桑田が突然こう言い出した。