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プロ野球記録「バレンティンの60発」はいかに生まれた? ヤクルト同僚&対戦相手の証言「ああいう性格だから(笑)」「初球の打率、知っとる?」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKYODO
posted2022/09/13 11:01
2013年9月15日にプロ野球記録となる56号を放ったヤクルト・バレンティン
横浜スコアラーを驚愕させた“ある数字”
「こちらが言わなくても本人もだんだんわかってきたみたい。50号行くか行かないかあたりからは、もうこっちを見なくなった。2年連続ホームラン王ですからね。すごいのはわかっていた。これで集中したらどんだけ打つんだろう、と。その結果が、今年の記録だったんじゃないですか」
集中カ――。
2011年に来日し、1年目、2年目ともに31本塁打をマークして2年連続でホームラン王を獲得したバレンティンは今季、前人未踏の60本塁打を量産した。昨季までと今季、どこが違ったのか。関係者に話を聞く中で、何度、この言葉を耳にしたことだろう。
たとえば、横浜のスコアラー田中彰も真っ先にその点を指摘した。
「いちばん変わったのは集中力や。打席に入ったときの顔つき、仕草がぜんぜん違うもん。去年までは悪くなると2週間ぐらいダメやったけど、今年は1、2試合で戻した。技術的には前から悪くなかったんやから。バレンティンの初球の打率、知っとる?」
田中が手持ちの資料を繰る。
「5割5分6厘で、ホームラン13本も打ってんねん。これはとんでもない数字やで」
宮本慎也「性格が子どもなので…」
ヤクルトのチームリーダーで、今季限りでユニフォームを脱いだ宮本慎也もこう語る。
「性格が子どもなので、嫌なことがあるとすぐふて腐れる。一塁までちゃんと走らないし、守備もいい加減。でも今年は集中力があったんでしょうね、しょうもない空振りをしなくなった。あれがいちばんの要因ですよ」
宮本は、もともと「こいつ、ちゃんとやったらラミレス以上になるのにな」と潜在能力の高さは認めていた。というのも、パワーがケタ違いだったからだ。
神宮球場の外野最後部の柵には、座席のブロックを示すアルファベットの看板が掲げられている。かつてヤクルトの和製大砲として活躍し、今季から打撃コーチに就任した池山隆寛が、そのアルファベットまで飛ばす外国人選手を見たのは初めてだった。
「練習で簡単に飛ばしますから。あと、バックスクリーンの左にコカコーラの看板があるんですけど、あそこにぶつけたん見たのも初めて。当たったところだけ電灯がつかなくなってね。それ以降、係の人がグローブを持ってその前に立つようになったんです」