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プロ野球記録「バレンティンの60発」はいかに生まれた? ヤクルト同僚&対戦相手の証言「ああいう性格だから(笑)」「初球の打率、知っとる?」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKYODO
posted2022/09/13 11:01
2013年9月15日にプロ野球記録となる56号を放ったヤクルト・バレンティン
そして池山もやはり「集中力」という言葉を使った。
「ボールの角度、上げる力は、ずば抜けている。普通に集中力を持ってやれば、できる数字、可能な数字だったと思いますけどね」
その集中力を象徴していたのが、「くそボール」をスタンドまで運んだ54号だったといえよう。
いま振り返る「2013年のバレンティン」
思い返せば今シーズンのホームラン王争いは、4月までは横浜のブランコが独走していた。4月が終わった時点で15本。一方、春先のWBCで左内転筋の肉離れを起こし、出遅れていたバレンティンはまだ8本だった。
だが、いきなり7本差をつけられながらも、バレンティンの闘志はまったく衰えていなかった。バレンティンの今季初本塁打が出たのは、ブランコの第1号から遅れること16日、4月16日の中日戦だ。その日、1号、2号と2本記録したのだが、いずれも右方向への本塁打だった。さらに12日後、巨人の豪腕リリーバー、マシソンから打った第5号は右中間へ飛び込んだ。池山の証言だ。
「あの3本で今年のボールは飛ぶってわかったんだろうね。その頃から『いずれ俺が抜く』って宣言してたから」
ボールが飛ぶことによるメリットは飛距離がアップするだけではない。力を入れなくてもスタンドに届く――。その心の余裕が大きかった。池山が打者心理をこう説明する。
「僕も風がフォローのときとアゲインストのときでは打席の中での安心感が違った。フォローだと力まないし、集中力が増すから選球眼もよくなる。いい循環になっていく」
神宮球場をホームとしているアドバンテージもある。今季、広島の投手コーチを務めた古沢憲司は「神宮は打ち下ろしだから」と明かす。ちなみに広島は今シーズン、バレンティンに11球団中最多となる14本塁打を喫した。
「外野のフェンスから眺めたらよーくわかるよ。ホーム方向の方が高くなってるから。打者にとっては見下ろす感じ。あれはバッターにとってすごい有利なんですよ」
それを証明するかのように、バレンティンは60本のうち、およそ3分の2にあたる38本を神宮球場で記録している。