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欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
久保建英は何のためにソシエダへ? 移籍発表時にはファンが疑念の声も…バスク在住英国人がクボに惹かれる“これだけの理由”
text by
フィル・ボールPhill Ball
photograph byGetty Images
posted2022/09/02 17:01
新天地ソシエダで開幕から3戦連続スタメン出場している久保建英
正直、日本における知名度はそれほど高くはないと聞く。しかしスペインでは中堅チームとして、確固たる地位を築いてきた。現に1980年代にはトップリーグで2度優勝を経験。コパ・デル・レイでも3度頂点に立った実績を持つ。1928年以来、ラ・リーガでは合計61チームが名を連ねてきたが、試合数や成績などを集計した総合ランキングで8位につけている。
スペイン「4強」を追撃する筆頭格
しかも最近は上り調子だ。過去3シーズンのラ・リーガにおける順位は6位、5位、6位。国際大会では、昨シーズンに続いてヨーロッパリーグに参戦する。現在のソシエダは、レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリー、セビージャのいわゆる「4強」を追撃する筆頭格になっており、チャンピオンズリーグ出場圏内にも食い込もうとしている。 そこで招かれたのが久保だった。
ソシエダへの移籍は文化的な点でも興味深い。
サン・セバスチャンは、フランスとの国境から20kmほど西に位置する人口18万人の小都市だ。マドリードやバルセロナ、セビリアと比べてもぐっとコンパクトな代わりに、風光明媚で非常に美しい街として知られている。
この街はバスク自治州の文化の中心地としても名高い。地元の人々はスペイン語だけでなく、起源が不明な「エウスケラ語」をよく使うし、歴史や食文化、祝祭や民話、そして民族意識に到るまで、スペインとは異なる独自の文化を育んできた。サン・セバスチャンはバスクであって、スペインではないと評される所以だろう。ちなみにサン・セバスチャンは、天気もスペインらしくない。公式データによれば、年間降雨量はイギリスで最も雨の多いマンチェスターよりも上らしい。この点でもやはりスペインとは一味違っている。
ビルバオかソシエダか、それが問題だ
この種の独特な地域性は、サッカーにも如実に反映されている。
バスク地方のサッカークラブといえば、多くの人は今でもアスレティック・ビルバオを連想するに違いない。だが、この種のステレオタイプはもはや時代遅れだ。
たしかにビルバオは、バスク州で生まれた選手やジュニアユースで育った選手だけでチームを構成するという「純血主義」で知られる。しかしソシエダも、1989年にリバプールからジョン・オルドリッジを獲得するまでは同じ方針を貫いていた。さらに述べるなら、ソシエダが方針を変更せざるを得なかったのは、ビルバオの圧力によるものだった。羽振りがよく、規模も大きい「隣人」は、自分たちこそがバスクの旗手だと主張。地元出身の才能を、根こそぎかき集めようとし続けた。