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欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
久保建英は何のためにソシエダへ? 移籍発表時にはファンが疑念の声も…バスク在住英国人がクボに惹かれる“これだけの理由”
text by
フィル・ボールPhill Ball
photograph byGetty Images
posted2022/09/02 17:01
新天地ソシエダで開幕から3戦連続スタメン出場している久保建英
ところが今や、クラブの力関係は完全に逆転。ソシエダが着実に存在感を増し、地元の才能を確保できるようになったのと対照的に、ビルバオは成績もぱっとせず、優れた若手も呼び寄せることができなくなってしまった。ビルバオの関係者は、昔と同じようにバスク文化の担い手を自認しているとしてもである。
それでいてソシエダは、自らの哲学を放棄したわけではない。オルドリッジの獲得を境に、これだと見込んだ海外の選手は獲得するようになったが、彼らはその後も「スペイン人選手」とは長らく契約しなかった。この方針が変わったのは、ごく最近のことにすぎないし、クラブは今でも主に地元の選手を「カンテラ」(ユースチーム)でじっくり育て上げる方針を好んでいる。現在、アーセナルの指揮を執っているミケル・アルテタ、かつてリバプールやバイエルン・ミュンヘンで活躍したシャビ・アロンソなどは、ソシエダのカンテラが輩出した人材の代表格だ。ちなみにアロンソは、Bチームの監督としてソシエダに戻ってきている。
久保獲得の発表時には疑念を評するファンも…
このような伝統は、独自のアイデンティティーと魅力をクラブにもたらす反面、久保のような外国人選手が加入する際のハードルも上げてしまう。ましてやソシエダの場合、アジア系の選手は過去に一人しか所属していなかった。2003年に契約した韓国人のイ・チョンスである。しかも彼は鳴り物入りでデビューしたにもかかわらず結局1ゴールすら奪えず、わずか1シーズンで他のクラブに貸し出されている。
むろん久保はイ・チョンスよりもはるかに優れた選手だし、すでに実績においても上回っている。だが7月19日に獲得が発表された際には、疑念を表するファンが少なからずいたのも事実だ。曰く、本当に彼のような選手は必要なのか? 久保の獲得は将来有望な若手(地元出身のMFベニャト・トゥリエンテスや、マシア育ちのロベルト・ナバーロ等)の成長を妨げるのではないか? レアル・マドリーはわざわざ契約を結んだにもかかわらず、3年続けてマジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェに貸し出してきたはずだ、といった類の意見である。
とはいえ最もプレッシャーを感じていたのは、久保自身だろう。彼はまだ21歳ながら、すでにリーガで十分な経験を積んでいる。順調にいけば、9月中にはリーガでの100試合目を迎えることになるはずだ。 リーガを熟知していることは大きなアドバンテージだが、久保ほどの才能の持ち主であれば、一気にブレークスルーを果たしたいという思いを募らせていたとしてもおかしくない。