Number ExBACK NUMBER
「弾丸!」「甲子園はキヨハラのためにあるのか!」清原和博から浴びた衝撃の2発「僕のような投手にとっては宝なんです」《1985年PL学園vs宇部商の決勝秘話》
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph bySankei Shimbun
posted2022/08/21 17:28
1985年夏の甲子園決勝で宇部商・古谷から2本のホームランを放った清原
「ああ、なんで俺はこうなったんやろうって思いました。古谷が走っていた時、俺は走っていなかった。それを神様は見てたんかな。もっと練習すれば、投げさせてもらえたんかな、と。そんなことばかり考えていました」
サヨナラ負けを告げる打球を左翼から見届けた。スタンドの拍手に迎えられ、両校の選手たちが整列する中、田上だけは帽子を目深にかぶり、うつむいたままだった。清原の顔はまともに見られなかった。ただ、ただ、涙が止まらなかった。
「試合の後のことは何も覚えていないんですよ。ただ、ずっと泣きよった、それだけしか……」
表彰式、場内一周、長い閉会式の間も、誇らしき敗者の中でただ1人、投げられなかったエースは泣き続けた。
勝利を求める本能と敗北を願う嫉妬心。清原への憧れと古谷や仲間たちへの友情。相反するものに引っ張られ続けた残酷な2時間22分の末に、17歳の心は砕けた。
『清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実』(文春文庫) 書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします