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「キヨハラさん…ですよね?」英雄か、犯罪者か。清原和博が甲子園に受け入れられた瞬間「ぼく、あんなところまで飛ばしたんか…」
posted2022/08/20 17:07
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Takuya Sugiyama
2018年8月21日、甲子園100回大会の決勝戦に清原和博は向かっていた。覚醒剤取締法違反で逮捕され、執行猶予中だった”堕ちた英雄”は、果たして聖地に受け入れられるのか。
ベストセラー『嫌われた監督』で大宅賞、講談社ノンフィクション賞、ミズノスポーツライター賞の3冠受賞を果たした作家・鈴木忠平氏の待望の新刊『虚空の人 清原和博を巡る旅』より一部抜粋してお届けします。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
ベストセラー『嫌われた監督』で大宅賞、講談社ノンフィクション賞、ミズノスポーツライター賞の3冠受賞を果たした作家・鈴木忠平氏の待望の新刊『虚空の人 清原和博を巡る旅』より一部抜粋してお届けします。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
エレベーターの扉が静かに開いたとき宮地は下を向いていた。たどり着いた先に何が待っているのか、直視できなかった。
そのとき、頭上に清原の呻きが聞こえた。
「ああ......」
声にならない声だった。
顔を上げると、清原はふらふらと扉の向こうへ吸い寄せられていた。そこには光があった。どういうわけか、甲子園球場は眩いほどの夏の陽射しに照らされていた。黒い雲に覆われて、あれほど厳しい表情をしていた聖地が青空をバックに無邪気に笑っているように見えた。
いったい、いつの間にあの雲がはれたのか。自分たちはそれほど長い時間、あの薄暗いトンネルのような通路にいたのだろうか。宮地は時間と空間が生み出す錯覚にとらわれていた。
甲子園で清原に用意された場所
グラウンドを囲んでなだらかに広がったスタンドは人で埋まっていた。黒い土も生命力にみなぎった緑の芝生も、フェンスや手すりの鉄柱一本一本までもが整然とプレーボールを待っていた。それらすべてが光に照らされ、白く輝いていた。その美しさに清原は呆然と見入っているようだった。
バックネット裏にある記者席からさらに段を上がったボックス席、そこが清原に用意された場所だった。グラウンドから最も遠く、人目につかない場所であると同時に、そこからは舞台のすべてを見渡すことができた。
午後2時、プレーボールを告げるサイレンが響くと、穏やかな波のような拍手がスタジアム全体に広がった。