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「キヨハラさん…ですよね?」英雄か、犯罪者か。清原和博が甲子園に受け入れられた瞬間「ぼく、あんなところまで飛ばしたんか…」
 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2022/08/20 17:07

「キヨハラさん…ですよね?」英雄か、犯罪者か。清原和博が甲子園に受け入れられた瞬間「ぼく、あんなところまで飛ばしたんか…」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

甲子園100回大会の決勝戦に訪れ、記者席上のボックス席から観戦する清原和博(2018年撮影)

「これです。これが甲子園なんです」

  清原は前を見つめたまま呟いた。

「なんていうか......。静かなんです」

 そしてパイプ椅子から立ち上がると身を乗り出した。清原の眼前で、春夏連続優勝を狙う大阪の名門・大阪桐蔭高校と、秋田の県立校ながら快進撃を続けてきた金足農業高校の選手たちが攻守に散っていく。

「自分がここでプレーしていたなんて信じられないです......。でも大阪桐蔭は精鋭を集めた名門で、金足農業は地元の選手だけの県立校ですよね。なんか......あの時と似ているような気がします」

「ぼく、あんなところまで飛ばしたんか…」

 清原は1985年夏の決勝戦、常勝PL学園と山口の県立校・宇部商業とのゲームにこの試合を重ねているようだった。

 清原を本当の意味で甲子園の英雄にしたのはあの試合だった。それまでもエース桑田真澄と並んで高校球界のスターではあったが、あの試合で放った2本のホームランによって、甲子園は永遠に清原の代名詞になった。 

 1回表裏の攻防が終わると、清原は立ち上がってレフトスタンドとバックスクリーンを交互に見やった。

「ぼく、あんなところまで飛ばしたんか......」

 18歳の夏に描いた放物線の感触がよみがえっているのか、それとも今の自分とはかけ離れた過去として思いを馳せているのだろうか。宮地は清原の横顔を見つめた。

英雄か、犯罪者か?

 そのとき客席の下のほうからスタンドの階段を上がってくる人影があった。30代くらいの男性2人組だった。彼らは清原と宮地のいるボックス席のすぐ脇まで来ると、こう問いかけてきた。

「清原さん......ですよね?」

 宮地は思わず身を硬くした。予測していたことだが、できることなら誰にも気づかれずに甲子園を去りたかった。彼らがどういうつもりで声をかけてきたのか分からなかったが、もし罵声を浴びせられ、そのざわめきがこの満員のスタンドに伝播すれば、最悪の事態も考えられた。 

 英雄か、犯罪者か。甲子園にやってきた清原を世の中がどうとらえるのか、それが分かる瞬間だった。

【次ページ】 清原が甲子園に受け入れられた瞬間

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