自分の精神状態が普通でないことを思い知るには十分だった。

「もう帰ろう、俺はここにはいられない」

　そう真剣に考え、荷物をまとめようとした。

ベテラン3人の献身に「俺は何をやっているんだ」

　ところが、ゴンさん、秋田さん、モリシ（森島寛晃）らの、チームのことを想って行動するベテラン3人の姿に、私の心は引き留められた。

　たとえスタートでなくとも、出場の可能性が少なくとも、つねにチームのために何ができるかを考え抜き、行動を起こす姿勢に目を奪われた。

　仲間を鼓舞し、ときに盛り上げ、率先してやっている。荷物を運ぶなどの雑用も、そして、いつ試合に出てもいいように、決して手を抜くことなく、集中して練習にも取り組んでいた。

　自国でのワールドカップだ。試合に出たい想いは、私だけでなく彼らとて同じだ。

　ベテラン3人は献身的にチームのため、日本代表のためにすべてを尽くしていた。オフ・ザ・ピッチで、その経験をチームに還元する役割を理解しつつも、彼らはオン・ザ・ピッチで活躍することを決してあきらめていたわけではなかった。

　サッカーはどこまでいってもチームスポーツだと、あらためて強く感じた。

　試合に出ていない選手の空気、パフォーマンスによって、チームの結果は大きく左右される。強いチームを支えているのは、そういう控え選手の存在なのだ。

　そんな彼らを前にして、

「俺は何をやっているんだ」

　と、心底自分を恥じた。

　トルシエ監督は、病み上がりにもかかわらず、自分を信じて選び、キャプテンマークまで任せてくれた。なのに、自分がうまくいかないからといっていじけるなんて、なんて馬鹿な男だと思った。ただただカッコ悪いだけの自分に、やっと気づいた。

　チームのために自分にやれることを、たとえ試合に出られずともやる、やり抜く。

　ワールドカップは終わってない。

＜#3へ続く＞

#3に続く

「這ってでもプレーすべきだった…」“W杯で戦えなかったキャプテン”森岡隆三が酔いつぶれた宮城の夜と「アメリカへの逃避行」

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