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小野伸二を練習中に怒鳴りつけた“日韓W杯キャプテン”森岡隆三の後悔「もう帰ろう、ここにはいられない」「俺は何をやっているんだ」
posted2022/07/07 17:02
text by
森岡隆三Ryuzo Morioka
photograph by
Reuters/AFLO
ベンチ外となったロシア戦、私はスタンドの上から試合を観ていた。
負傷者であり、戦えない男、戦う意志のない者は必要ないと、ベンチに置いておきたくなかったのかもしれない。チームの士気が下がることを考えれば、当然だった。
地元、横浜でのワールドカップ・ゲームだった。
複雑な想いが頭を支配したが、日本のパフォーマンスに集中し、勝利への願いを必死に送った。
スリッピーなピッチでの試合、互いに集中力の高い好ゲームの均衡を破ったのは、初戦のベルギー戦に引きつづき、絶好調のイナの、値千金のゴールだった。
そして、日本代表は最後まで集中を保ち、ワールドカップ初勝利を手にした。
初勝利を手繰り寄せる素晴らしいゴールを決めたイナは、もちろん素晴らしかった。
しかし、私から観たマン・オブ・ザ・マッチは、まぎれもなく宮本恒靖だった。
「ロシア戦のツネは、私の理想を体現していた」
サッカーを生業にしている人間にとって、ポジションの奪い合いや競争はある種の日常だ。競争があること、お互いに良い刺激を与える関係は成長にもつながる。
私にとってツネは、同じポジションでありながら、良い刺激を与えてくれる仲間であり、友人だった。敵対し、よこしまなライバル心をたぎらせたわけでもなかった。
どちらが優れ、どちらが劣っているというのは周りが考えることであり、私がツネに対して劣っていると思わないのと同様に、ツネも私に負けているという感覚はなかったはずだ。
しかし、2002年に入り、4カ月間、代表でディフェンスラインの中央を統率してきたにもかかわらず、怪我から復帰したばかりの人間に、すぐさまその座を奪われるのは、納得がいかない気持ちもあっただろう。
ツネはいつも冷静で感情を表に出すことは少ない。
けれど、きっとその内にはさまざまな想いがあったに違いなかった。