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小野伸二を練習中に怒鳴りつけた“日韓W杯キャプテン”森岡隆三の後悔「もう帰ろう、ここにはいられない」「俺は何をやっているんだ」
text by
森岡隆三Ryuzo Morioka
photograph byReuters/AFLO
posted2022/07/07 17:02
2001年のFIFAコンフェデレーションズカップ。ニコラ・アネルカ(フランス)のドリブル突破を阻止する森岡隆三と小野伸二
平常時のしびれは多少和らいでも、動けばまたしびれとともになんともいえない痛みが戻ってくる。それでも、練習には参加するようになった。当時の私は、毎日、良くなることを願うかのように、すがるような気持ちでピッチに立っていた。しかし、練習試合に出ても、まともに動けなかった。不甲斐ないプレーで失点にも絡んだ。
トルシエ監督の怒号が響き渡る。そもそも怪我だと認識されていなかったのかもしれない。良くならない足、伝わらない病状と想い。
もどかしく苦しい気持ちが顔に出ていたようだ。
「隆三、練習をやるんだったら、あまり痛い顔を見せないで頑張ろう」
山本昌邦コーチから、そう言われたことを覚えている。
感情をあらわにして、チームを良くも悪くも揺さぶるトルシエ監督のもとで、昌邦さんは、つねにチーム内の調和を保つことに尽力されていた。
控え組の選手をはじめ、選手個々の表情や精神状態にも気を配りながら、声をかけていた。負傷した私のことも、日々サポートしてくれる。
昌邦さんがいたからあのチームがまわっていたのは事実だ。だから、彼の言葉を恨むことはない。それどころか、昌邦さんがいなかったら、もっと心が乱れていた可能性もあった。それでもあのときの自分には余裕がなかった。
シュート練習中、小野伸二に「黙ってろ!」
ある日の練習でのことだった。
リラックスした雰囲気のなか、レクリエーション要素のあるトレーニングで、2つのグループに分かれてシュートを打ち合った。
普段なら決めて当然の難易度の低いシュートを、私はことごとく外していた。
「決めろよ!」
シンジの声が飛んできた。遊びのシュート競争なのだから、からかい半分の言葉だ。ところが、私は吐き捨てるように怒鳴ってしまった。
「うっせーな、黙ってろ!」
一瞬、目を丸くして驚いているシンジの顔が目に入った。
凍りついたその場の空気をごまかすように、「ごめん」とつぶやくのが精一杯だった。練習後に再び謝ったが、自分の心の小ささが恥ずかしかった。