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チョン・ソンリョン37歳「GKはワイン? じゃあ僕はウイスキーですね」 円熟味を増す川崎Fの守護神が“試合中に感情を出さない”理由
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byEtsuo Hara/Getty Images
posted2022/07/01 11:01
2016年の来日以来、川崎フロンターレの正GKとして君臨するチョン・ソンリョン。最後尾からチームを支える守護神にインタビューを行った
「優勝する前は、タイトルを取るのは難しいという考えが選手にもあったと思います。でも優勝の味を覚えて自信がつき、それがずっと続いている。こういうサッカーをすれば優勝できる、と自信もついたのだと思います。優勝した時の気持ちは本当にいいもので、自分自身もまたこれを味わいたいという思いが強くなりました。(タイトル獲得で)星が一つ一つ付いていくというのは、すごく楽しいですから」
ビッグセーブをしても感情を表に出さない理由
――彼がチームにもたらしているものは何なのか。
5月に達成したJ1リーグ通算200試合出場に際して、鬼木達監督にそんな質問をしてみた。実はこの数字は、歴代のクラブ在籍GKの中で最多出場記録である。チームにおける信頼の証を雄弁に物語っているとも思うのだが、コーチ時代も含めると長年の付き合いになる指揮官は、長きに渡って高いアベレージを発揮し続けている価値をこう称賛した。
「今まで見てきたGKの中で、これだけ安定してチームに貢献してくれている選手は少ないと思います。大舞台にも出場している彼の経験がチームに落ち着きを与えてくれている。ゲームでの存在感はもちろんありますが、人間性でチームにもたらしているものも大きいです」
絶対王者に落ち着きを与える存在――それがチョン・ソンリョンなのである。
振り返ってみると、ゲームの流れを変えるようなビッグセーブをした後、彼が感情の波を表現することはほとんどない。むしろ何事もなかったように、淡々と次のプレーに移っていくほどだ。試合の流れを変えるファインセーブを披露すると、力強いガッツポーズや咆哮でチームメートを鼓舞するGKもいるが、それとは対極のタイプだと言える。
試合中にそうした振る舞いをしない理由は、実にシンプルだ。
「試合が終わっていないですから」
そう言って、ほんの少しだけ不敵に笑い、セルフコントロールの流儀を明かしてくれた。
「守ったからといって、ガッツポーズして気持ちを上げることはないですね。逆に言うと、ゴールを決められても、そんなに落胆しません。中学生くらいから落ち着いてやることを心がけてきたので、これはもう習慣というか、性格なのかもしれません(笑)。GKには冷静さが大事だと思っています」
ときに達観しているようにすら見えるリアクションが、チームメートに「何も問題ない」という安心感と冷静さをもたらしてくれるのだろう。そうやって彼は、Jリーグ王者のゴールマウスの前に立ち続けてきたのである。