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チョン・ソンリョン37歳「GKはワイン? じゃあ僕はウイスキーですね」 円熟味を増す川崎Fの守護神が“試合中に感情を出さない”理由
posted2022/07/01 11:01
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph by
Etsuo Hara/Getty Images
サッカー界には、こんな名言がある。
「ゴールキーパーはワインと同じ。時を重ね、熟成されたワインが美味しいように、ゴールキーパーのプレーにも味が出るものだ」
40歳にしてイタリア代表をW杯優勝に導いた伝説的なGK、ディノ・ゾフの言葉として知られている。
若くして才能を輝かせることが多いストライカーとは対照的に、GKというポジションは年齢とともに積み重ねていくキャリアがプレーに表れると言われている。ベテランともなると、ゴール前での佇まいからヴィンテージワインのような雰囲気を醸し出すのかもしれない。
「年を重ねてもっと美味しくなりたい」
川崎フロンターレの守護神として君臨するチョン・ソンリョンは、現在37歳だ。取材中、ワインの例えを金明豪通訳に伝えてもらうと、「その言葉は初めて聞きました」と笑い、こう続けた。
「じゃあ、僕はウイスキーですね。ウイスキーのように年を重ねてもっと美味しくなりたい」
なぜワインではなくウイスキーなのかはわからないが(単にジョークだったのかもしれない)、どちらも長期間の熟成によって味わいが深まる共通点がある。
日本にやってきたのは、30歳を超えてからだった。
彼を獲得した際、当時GMだった庄子春男氏は「接戦をものにするには、GKのファインセーブが1つか2つ必要だ」と話していたが、韓国代表としてW杯と五輪に2度ずつ出場した実績を誇るレジェンドは、その時点ですでに品質が保証されている高級ウイスキーのようなものだった。
実際、川崎フロンターレがタイトルを獲得し始めた歴史を紐解いていくと、ソンリョンの加入とリンクしていると言っても過言ではないほどだ。
移籍初年度となった2016年は、年間勝ち点2位(最終順位は3位)と天皇杯準優勝に貢献。シルバーメダルからも遠ざかっていたクラブを優勝争いに押し上げた。2年目の2017年に悲願のリーグ初優勝、さらに翌年にリーグ連覇を成し遂げた。直近5年で4度となるリーグタイトル獲得の瞬間の全てを、ピッチ上で噛み締めている。
無冠に泣き続けたチームが絶対王者と呼ばれるようになるまでの景色を、最後尾から見続けてきた守護神は、その成長過程を感慨深く振り返った。