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「練習が中止になればいいのに」サッカー嫌いの少年を魅了した“ゴールの快感” 上田綺世が考え続けた「得点のための論理」とは
posted2021/12/09 17:03
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph by
Getty Images
「人間は考える葦である」
これは17世紀にフランス人思想家のブレーズ・パスカルが自身の書に綴った言葉だ。自然界において、人間は葦のように弱い存在だが、思考によって、宇宙をも包むことができるという意味を含んでいる。
アスリートを長く取材するなかで、何度もこの言葉が頭に浮かぶ出会いがある。思考する力は、身体能力などの生まれ持った能力を埋める可能性を秘めたものだ。長く現役として活躍できる選手の多くは、経験に導かれた思考力で、加齢による衰えを補い競争に勝ち残っている。しかし、闇雲に努力しても成果は得られないのと同様に、ただ考えればいいというわけではない。何を感じ、自身に必要なものを見つけ出し、それを埋めるために何をすべきか……。いかに有益な思考ができるかの重要性を、上田綺世の話を聞きながら改めて感じた。
2019年、法政大学3年の夏に鹿島アントラーズでプロデビューした上田は、今夏の東京五輪代表の軸となるストライカーとして期待を集めていた。しかし、大会直前の負傷もあって同大会での先発出場は1試合に留まり、無得点だった。
それでも今季のJリーグでは14得点を決め、鹿島のエースストライカーに成長。サポーターの間では、「結局綺世が点をとる」というフレーズが定着するほどだ。11月に続き、2022年初戦となるウズベキスタン戦を戦う日本代表にも招集されている。日本代表のエース候補でもある23歳のストライカーは、どんなキャリアを歩んできたのだろうか。
父親との「意地の張り合い」の中で身につけた論理的思考
「まず僕はサッカーが嫌いだったんですよ。社会人チームでプレーしていた父親のゴールシーンを見て、小学1年生のときにサッカーを始めました。でも実際にやってみると面白くなかった。週に1度しかない少年団の練習も雨で中止になるのを願っていました。一番下手だったから、練習でも恥ずかしかったんです。厳しい父親に引きずられながら行くような感じでした」
そんな綺世少年がサッカーに夢中になったきっかけもまた、ゴールだった。