甲子園の風BACK NUMBER
“V候補のセンバツ辞退”から3カ月…京都国際エース森下瑠大にのしかかった“試練”とは? 近江と初対決「山田君はやっぱりいいピッチャー」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2022/06/11 11:00
練習試合で対戦が実現した近江・山田陽翔(右)と京都国際・森下瑠大
一方の山田は5回を投げ、許したヒットは単打2本のみ。当初は3回を投げる予定だったが、本人の希望で5回まで投げ切った。
「今日は対森下君というよりランナーが出た時にギアを上げながら、試合に勝つことだけを考えて投げました。2回に森下君に打たれたのは悔しいですが、対戦できたことはすごく嬉しかったです」
表情をほころばせながらこう振り返った山田も、センバツ出場が急きょ決まった時から複雑な気持ちを抱き続けていた。
「自分たちが勝ったとしても喜んでいいのだろうか」
勝ち進むたびに、素直に喜ぶことに抵抗を感じつつも、勝つことが自分たちの使命だと思い必死に腕を振った。劇的な勝利を挙げた試合も含め、決勝までの4勝は単に自分たちだけのために掴んだ白星ではないと、山田はずっと感じていた。
5月9日の山田の誕生日には、森下がLINEで祝福のメッセージを送るまでの仲になった。今回の試合後にも、両エースは晴れやかな表情を見せながら互いの健闘を称え合っていた。
「一緒に日本代表に入れたら」
森下は安堵の表情を浮かべて、こう口にする。
「ああいうことになって1日1日の大切さが分かって、野球ができる日々に感謝しています」
山田は茶目っ気たっぷりに笑いながらこう明かした。
「次に対戦できるとしたら、甲子園ですかね。その時は投げ合えたらいいですね。森下君とは一緒に(U18)日本代表に入れたらなって思っているんです」
取材を終えると、近江の多賀監督が森下に駆け寄り「今日は本当にありがとう」と御礼を述べる場面もあった。
“代替出場”の重みを感じる山田の思い。“当たり前”の日々に感謝する森下の思い。
さまざまな感情が入り混じった“交流試合”は、初夏の夕暮れの中で静かに幕を閉じた。両校は夏の甲子園出場、そしてさらにその先を見つめる。
だが、正直、見る者からすればこんな楽しみも尽きない。
「次に真剣勝負が見られる時はいつになるだろうか」
両校、両エースの“夏物語”は、ここからが本番になる。