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“V候補のセンバツ辞退”から3カ月…京都国際エース森下瑠大にのしかかった“試練”とは? 近江と初対決「山田君はやっぱりいいピッチャー」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2022/06/11 11:00
練習試合で対戦が実現した近江・山田陽翔(右)と京都国際・森下瑠大
森下らは4月上旬に寮に戻り、練習を開始した。ただ、自宅でほとんど体を動かせなかったため、まずは落ちていた体力を戻そうと、軽いキャッチボールやランニングなどで汗を流しながら徐々に練習量を増やそうとした。そんな矢先、大きな試練が森下にのしかかる。
「左ひじが痛いとずっと言うてまして…。コロナの後遺症なのか関節炎のような感じが続いているんです」(小牧監督)
一時は投げられるまで何とか回復し、春の府大会の日星戦ではピンチだった6回2死からマウンドに立ち、3回1/3を投げ5奪三振1失点(自責点0)と好投を見せるも、そこからヒジの状態は下降線をたどった。5月下旬の段階では「ベストが10なら9くらいまでは来ている」と本人は順調さを口にするも、本格的なピッチングがなかなかできず、6月にかけて練習試合でも未登板の日が続いた。
それでも、今まで四六時中一緒に過ごしてきた仲間と数週間ぶりに顔を合わせた時の感慨深さは、森下の中に今でも色濃く残っている。
「みんなが元気に寮に戻ってきた顔を見た時は、とてもホッとしました。みんなで集まった時に“当たり前に野球はできないんやな”って話すこともありました。久々に練習をした時はすごく楽しかったです」(森下)
小牧監督は、集合して最初の練習で初動が遅い選手が目につき、一喝しようか迷ったという。だが「嬉しそうにいい表情で野球している子らを見て、怒るのをやめました」と苦笑いしていた。
山田からヒットを放った森下
この日、マイネットスタジアム皇子山に到着した直後、小牧監督はこんな話をしていた。
「正直、大差で負けるんじゃないかと不安で(苦笑)。森下はまだ投げられない状況ですし、最近の練習試合でどうもチームが乗り切らなくて、大差で負ける試合が多くて……」
春の府大会で西城陽に2-3で敗れて以降、森下のピッチングの回復の見込みが立たない重苦しい空気が、チームに影を落としていた。小牧監督は「森下頼みのチーム状況を何とか脱却したい」と、森下が投げられない今だからこそ、他の戦力に期待するも練習試合で結果が出ない。
だが、この日は多くの観客が戦況を見つめる中、4-0と近江がリードしたまま5回を終えるも、6回に京都国際が3点を返して1点差のまま終盤に進む大接戦となった。
近江の先発のマウンドに立ったエースの山田は、立ち上がりからカットボール、ツーシームなどをコースにちりばめ、的を絞らせなかった。だが、2回表に先頭打者だった森下に得意のツーシームを右前に運ばれた。森下はこのヒットを含め4打数3安打。6回には近江2番手の河越大輝から右中間を破る三塁打を放つなど、投げられなくてもバットで魅せた。
「今日は自分のスイングがしっかりできていましたし、良いピッチャーと対戦できて結果を残せたことは良かったです。これからはこの状況を継続していけたら。ただ、2打席目で軌道が真っすぐに見えたので振りにいったら落ちていったボールがあったんです。あれを見切らないと打てないですね。山田君はやっぱりいいピッチャーやなと思いました」(森下)