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「打者が捕手の位置を見るのは“カンニング”です」甲子園出場の慶應高監督が語る、高校野球指導者への疑問「『バレないようにうまくやれ』が正しい態度か?」

posted2023/08/11 06:01

 
「打者が捕手の位置を見るのは“カンニング”です」甲子園出場の慶應高監督が語る、高校野球指導者への疑問「『バレないようにうまくやれ』が正しい態度か?」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

センバツに続き、夏の甲子園の舞台に立つ慶應高校・森林貴彦監督。異端視される50歳の指揮官は高校野球のある問題点を指摘する

text by

森林貴彦

森林貴彦Takahiko Moribayashi

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Kiichi Matsumoto

 神奈川大会準決勝で東海大相模を下し、決勝では横浜高校を撃破と、強豪ひしめく“戦国”神奈川から夏の甲子園出場を決めた慶應高校。「髪型自由」「長時間練習なし」という従来の高校野球とは一線を画する方針でチームを率いるのが森林貴彦監督だ。その考えを著書『Thinking Baseball ――慶應義塾高校が目指す"野球を通じて引き出す価値"』(東洋館出版社、2020年10月発行)から抜粋して紹介する(全3回の2回目/初回#1から読む)

スポーツマンシップがいま現在問われている

 もう一点、高校野球の価値として挙げられるのが、スポーツマンシップを身に付けることです。読者の皆さんにも耳なじみのある言葉で、多くの方が、スポーツマンが身に付けるべき態度という認識を持っているかもしれませんが、実際にはそれだけではありません。スポーツマンシップには、人間としての基本的な在り方という意味合いがあり、特にスポーツにおいてそれを身に付けやすいと言えます。

 以前、指導者としてスポーツマンシップについて学ぶ機会があり、その価値観に深く共感しました。相手、ルール、審判を「尊重」し、敬意を持って接する。「勇気」を持っていろいろなプレーに挑戦し、強い相手にチャレンジしていく。どんな結果になろうとも、「覚悟」を持って、きちんとそれを受け入れる。こうしたことがスポーツマンシップだと認識するようになりました。

 特に負けたときが重要で、そうした難しい状況でこそ、その人の本当の人間性が出ます。礼儀正しく相手を称えられるのか。審判やグラウンドの状況、チームメイトの所為(せい)にすることなく、敗戦を正面から受け入れられるのか。このようなスポーツマンシップがいま現在問われており、高校生が野球を通じて身に付けるべきことではないでしょうか。

打者が横目でキャッチャーの位置を確認する

 その対極にあるのが、サイン盗みなど、勝利のために手段を選ばない姿勢です。

 もちろんスポーツは勝負事ですから、決して勝たなくていいというわけではなく、勝利は絶対に追求していかなければなりません。近年は勝利至上主義を悪い意味にとられがちですが、やはり勝利を求めない限りは、スポーツは成立しないと思います。いろいろなことにチャレンジして、必死に勝利を求めていく中でも、人の道を外れずにルールの中で工夫して結果を残すことが大切です。

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