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「プロ野球史上最高の視聴率48.8%の試合といえば?」日本人はいつからテレビで野球を見なくなった? 小学生男子が巨人4番の名前を言えた時代 

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中溝康隆

中溝康隆Yasutaka Nakamizo

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photograph byKYODO

posted2022/10/13 11:01

「プロ野球史上最高の視聴率48.8%の試合といえば?」日本人はいつからテレビで野球を見なくなった? 小学生男子が巨人4番の名前を言えた時代<Number Web> photograph by KYODO

落合博満(左)からバッティングの指導を受ける松井秀喜(1994年9月撮影)

プロ野球史上最高の視聴率48.8%の時代

 正直、公開直後に観賞したときは霞の「そんなんだからJリーグのファンが増えるんでしょ」という突っ込みに、「お嬢ちゃん、Jリーグと巨人軍と宮沢りえの話題は俺の前ですんな!」なんて自虐的にブチギレるノムさん……じゃなくて武田鉄矢をほとんどギャグとして笑っていたわけだが(西武とヤクルトが熱戦を繰り広げた92年日本シリーズ第7戦翌朝のスポーツ新聞一面は、宮沢りえと貴花田の電撃婚約が独占した)、先日DVDを十数年ぶりに見てみたら、ベテラン轟のしみったれた二軍生活や不器用ながらもひとり娘を想う姿がやけに沁みた。

 ベンチの野次将軍としてヤケクソに明るく振る舞うも、加齢とともに自慢の足は衰え、チームメイトの若手からは「終わった選手」と馬鹿にされ、惰性で時を過ごしている。過去の栄光じゃ飯は食えやしない。現役生活はもう長くはないだろう。でもまだ終われない、オレは終わりたくないとあがくのだ。深夜に狭い部屋で素振りをする父の背中に向けて娘はこう問う。

「私のため? カスミおネエちゃんのため?」

「……こいつのプライドのためだ」

 目の前の背番号6のユニフォームをバットで指し示し、黙々と素振りを続ける男。劇中で轟が口にする「野球はただの見せ物だと思うか?」という魂の叫びは、人生の多くの時間を球場で過ごしたすべての中年野球狂の心を打つ。

 なお、本作の配給収入は13億4000万円。94年の邦画興収では『平成狸合戦ぽんぽこ』『ゴジラvsメカゴジラ』『男はつらいよ』『東映アニメフェア』『ドラえもん』に次いでなんと年間第6位にランクイン。同年の巨人と中日の「10・8決戦」がプロ野球史上最高の視聴率48・8%を記録、巨人と西武の日本シリーズは3試合連続で視聴率40%超えと、日本の野球人気のピークがこの『ヒーローインタビュー』が公開された94年だった。

あのロンバケで「もうすぐプロ野球ニュース始まるし」

 いわば、月9ドラマと大作映画とベースボールの蜜月時代。平成前半までは映画やドラマの舞台設定に絶妙にハマり、リアリティをもたせるツールとしてプロ野球が機能していた。架空の世界を現実に近づけるには、視聴者の生活に近いものを劇中に登場させるのが効果的だ。確かに90年代はまだ、ブラウン管の向こう側の野球中継は日本の見慣れた日常そのものだった。

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