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「プロ野球史上最高の視聴率48.8%の試合といえば?」日本人はいつからテレビで野球を見なくなった? 小学生男子が巨人4番の名前を言えた時代 

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中溝康隆

中溝康隆Yasutaka Nakamizo

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posted2022/10/13 11:01

「プロ野球史上最高の視聴率48.8%の試合といえば?」日本人はいつからテレビで野球を見なくなった? 小学生男子が巨人4番の名前を言えた時代<Number Web> photograph by KYODO

落合博満(左)からバッティングの指導を受ける松井秀喜(1994年9月撮影)

 それが21世紀以降の平成中期から後期になると、ノスタルジー表現としてのプロ野球が頻繁に使われるようになる。例えば、スタジオジブリのアニメ映画『コクリコ坂から』(11年公開)の時代設定は1963年だが、昭和風情の一般家庭を伝えるBGMとして巨人戦ナイター中継の音声が流れる。藤原竜也主演の『僕だけがいない街』(16年公開)には、主人公の少年時代の80年代小学生を描くのにYGマークの野球帽に巨人ジャンパー姿のクラスメートが登場する。Netflixドラマ『全裸監督』でも80年から始まる第1話の小道具で、会社のデスクに置かれた月刊ジャイアンツを確認できる。

 そんな野球と言えば巨人という世間の常識を覆すのは、日本シリーズで盟主を完膚なきまでに叩いた新興球団の西武ライオンズだったわけだが、実際に87年を舞台にした映画『横道世之介』(13年公開)では、主人公の父が西武の伊東勤の大ファンという設定である。伊東がホームランを打てばテレビの前で絶叫かまして、ビールで乾杯するオヤジさん。気が付けば、お茶の間のプロ野球は“今”じゃなく、“あの頃”の象徴になっていた。

 いまや子どもたちの好きなスポーツ選手アンケート上位の常連は、海の向こうのメジャーリーガーにフィギュアスケートやテニスなど「世界を舞台に戦う」アスリートたち。一昔前の松井秀喜の顔と名前は教室の男子のほとんどが知っていたが、令和の巨人軍の4番バッター岡本和真を認識する小学生は決して多くはないだろう。試合放送も世間に向けての地上波テレビではなく、個人に対してのスマホ速報や動画配信が主流のプロ野球の社会的影響力や立ち位置は大きく変わった。

 思えば90年代のドラマや映画は、プロ野球がニッポンのど真ん中に存在した最後の時代の記録映像でもある。そこに漂うのはノスタルジーじゃなく、ヒリヒリするようなリアリティだ。

 96年に30%を超える高視聴率で“ロンバケ現象”を巻き起こしたフジテレビ月9ドラマ『ロングバケーション』では、フォルクスワーゲン・ゴルフの助手席に座る南(山口智子)が、片想いを寄せる相手の元に車を走らせる運転席の瀬名(木村拓哉)に向かってこんな台詞を言うシーンがある。

「ねぇ行くのやめない? もうすぐプロ野球ニュース始まるし」

<とんねるず編から続く>

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