「契約満了はだいたい予測できていました。だから、覚悟はありました。選手をやめることに抵抗があったのかというと、なかったですね。子供を相手にするのは好きですし、育成に携われることに魅力も感じました」

　吉田勇樹のプロ生活は、4年で幕を閉じた。

　なお引退を決断した翌日、スクールに挨拶をしにいったタイミングで、J2のあるクラブから打診を受けたという後日談がある。「そんな偶然あるの？」と困惑したが、わずか1日の差だったとはいえ、未練はなかった。

「もし（打診が）1日早かったら、考えたかもしれないし、何か違ったかもしれないですね。でも、そういうものなんだろうなと思っていました。早く現役を終えて指導者にいくことで、その分、見えること、やれることもある。ポジティブに捉えることもできていました」

トップチームのコーチに大抜擢された理由

　22歳の若さで、フロンターレのスクール・普及コーチとなった。

　練習の反応がダイレクトな表情で返ってくる子供たちにサッカーを教えるのは楽しく、愛嬌のある吉田のキャラクターも相まって、スクールでは一躍人気コーチになった。その後、2015年からの2年間は川崎市のトレセンを担当し、当初は2017年も育成スカウトとして過ごしていく予定だったという。

アカデミーのコーチとして真剣なまなざしでプレーを見つめる（2016年）　©KAWASAKI FRONTALE

　ところが2016年12月、トップチームのアシスタントコーチ就任の話が浮上したのである。ある日、事務所の一室に呼ばれると、育成部長から「どうする？」と聞かれた。

　即決ができないのも無理はない。トップチームのコーチとしてやっていく自信などなかったからである。

「『俺にやれるのかな？』、『俺でいいのか？』という不安がありましたから、1日中悩みました。仕事として言われたのは、若手が増えるからそこを重点的に見て欲しいと。それに少し上の世代とも年齢が近いので、選手とのパイプ役になって欲しい。あとは動けるので、プレーもやって欲しいと。ヒロキさん（伊藤宏樹）や周平さん（寺田周平）にも相談しましたが、『そういう役割だったら、お前しかいないだろう』と言われて、確かにそうだなって。俺でいいから声がかかったわけですよね。だったら自分がそんなに悩む必要はない。やろうと決めました」

　こうして、本人も予想していない巡り合わせで、何かに背中を押されるように吉田勇樹はトップチームに戻ってくる。

　鬼木達がトップチームの監督として就任した、2017年シーズンだった。＜#3へ続く＞