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「自分に対して『お前、バカじゃないの？』って」リーグ戦出場なしで現役引退… 川崎F・吉田勇樹コーチ32歳の心に残る“最大の後悔”
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byKAWASAKI FRONTALE
posted2022/04/13 17:46
2010年の天皇杯2回戦、鹿屋体育大学戦に先発した吉田勇樹コーチ（前列右から2人目。後列は小林悠）。4年間の現役生活で唯一の公式戦出場となった
吉田には心当たりがあった。自分を信じられるだけのものを、積み重ねていなかったからだ。だから、チャンスが巡ってきた時に自信を持つことができなかった。やらなかったのではなく、やれなかったのかもしれない。
「3年目までの蓄積ですよね。自分は努力が足りなかったと思っています。もっと攻撃というものに向き合って、技術のない自分にも向き合わなければいけなかった。結局、向き合い切れていなかったんです。今ではそう思っています」
その後、大学生相手の天皇杯には出場したが、リーグ戦でチャンスが巡ってくることはなかった。実績もなく、何も証明していない若手に居場所は与えられないのである。厳しい世界だが、プロとはそういう競争のなかで生き抜いていくものでもある。
現役最後の夏、鬼木コーチにかけられた言葉とは
もう一つ、吉田にとって忘れられない出来事がある。
現役最後の夏となった2011年のことだ。コンディションが良く、自分のパフォーマンスにも手応えを感じていた時期だった。試合のメンバーに入れるんじゃないかと期待をしたが、最後まで名前は呼ばれなかった。
練習後、悔しさをぐっと噛み締めていると、あるコーチから言葉をかけられる。
鬼木達だった。
「僕の表情を見ていたんでしょうね。『ユウキ、ちょっと来いよ……。どうだ？』って声をかけてくれたんです。昔の、まだプレハブだったクラブハウスのベンチです。人工芝のグラウンドを眺めながら、『今回はメンバーに入れなかったけど、お前が頑張っているところは見ているから』と色々と言ってくれて……。こういうタイミングで声をかけてくれたオニさんにすごく感謝しました」
この出来事は、吉田の描く指導者像にも大きな影響を与えたという。
「こういうタイミングで声をかけられる指導者はすごく素敵だし、もし自分が指導者になるんだったらこうなりたいな、とその時に思いましたね」
シーズン終了後には、クラブから契約満了を告げられている。
リーグ戦出場経験のない自分に他のクラブからオファーがあるとは思えなかった。選手として現役を続けたかったが、くるぶしを骨折しており、トライアウトにも参加できない状態だ。強化部からは「スクールに興味あるか？」と打診され、自分なりの期限まで熟考した後、現役を引退する決断を下した。
