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《追悼》“12球団初の新卒スカウト”が「マムシの今成」と呼ばれるまで…明かしていた“無名の有望選手を他球団から隠した”話
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph byJIJI PRESS
posted2022/03/04 17:03
2004年12月、日本ハムとの仮契約の記者会見後、笑顔を見せる宮城・東北高校のダルビッシュ有投手と今成泰章担当スカウト
そう言いつつも、自らの行状を懺悔することも忘れなかった。
ある年、埼玉大会の第1試合に有力校の試合があり、他球団のスカウトが視察に訪れた。だが、今成さんの目当ては第2試合に出場する無名選手だった。このままでは、1年時からこっそり温めていた隠し玉が他球団のスカウトに見つかってしまう。危機感を覚えた今成さんは、第1試合の途中で「他の球場でもやってるから、移動しようぜ」と他球団のスカウトを強引に連れ出した。そうして苦労して指名にこぎつけた太田賢吾は、現在ヤクルトで一軍定着を目指して奮闘中だ。
阪神時代には和田豊、関川浩一、桧山進次郎らを担当し、2003年の日本ハム移籍後はダルビッシュ有(現パドレス)、武田勝、上沢直之、加藤貴之らを担当している。
今成さんは4年前の時点で「今後担当してみたい選手」として、「ホームランキングになるヤツ」を挙げていた。投打の主要タイトルのほとんどは担当選手が獲得したものの、唯一本塁打王だけは誰も獲得していなかったからだ。
そして、今成さんは付け加えるように「今はまだ言えないけど、どうしてもほしいヤツがいるんだ」と言った。それは2018年ドラフト2位で指名した野村佑希のことだった。同年のドラフト会議後、今成さんはうれしそうな顔でこう語っていた。
「打球に角度があるし、運ぶようにスタンドに放り込める。木のバットのほうが飛ぶようなスイングができるからね」
野村が一軍に定着し、いよいよこれから本格開花か……というタイミングだっただけに、今成さんに野村の成長を見てもらえないことは残念でならない。
今成スカウトが語っていた“日ハムの強み”
今成さんは日本ハムの長所として、「土俵に上げてくれること」と語っていた。有望選手をただ獲得するだけでなく、教育し、チャンスを与える。それが「育成の日本ハム」と言われたチームの強みだと。